第16章 見かけによらない
「んもーしつこいなぁ、だから騒いでたのは春川ちゃんと百田ちゃんとキー坊で、オレは終始静かにしてたって!」
「…静かにしてたってあんたはそもそも存在がうるさいんだよ」
「存在がうるさいってなに?いくら闇社会アイドルのオレだって、無言のまま周囲に騒音被害をもたらすようなことはできないって!」
「元はと言えばあんたが廊下を走って雪の部屋に向かったから、目をつけられてたんじゃん。あんたさえ行かなきゃ私たちは雪の病室に行けるんだって。ちょっとここで待ってなよ、いつまで経っても私たちまで病室に行けない」
「オレは今すぐ戻って、雪ちゃんの側で見張ってなきゃいけないんだって!」
つい数分前。
逢坂の病室で騒いでいた面々は、突如として病室に現れた彼女(彼)に抵抗の余地なく、病院から締め出されたばかりだ。
病院から出た後もケンケンといがみ合う王馬と春川。
その二人が少しでも病院の出入り口に近づこうと試みると、希望ヶ峰学園のOGとして世間にその名を轟かせているマッチョな看護師が、どこからともなく即座に自動ドアの入り口に現れ、進路を妨害する。
武闘派の春川と、逃げに関しては右に出る者がいない王馬でさえ、ボディービルダー風の史上最強の看護師を相手取ることは出来ずにいた。
「あぁ…最原くんと天海くん、もしかして西口から入ってきてたりしないかな?東口で待ってて大丈夫?あーもーあんなにキメ顔で「任せて☆」なんて言わなきゃよかった!」
「終一達は逢坂の身の危険を心配してたってことだよな。なら、心配ないって言われた以上、安全なんじゃねぇのか?」
あんな巨神兵みたいな看護師もいるしよ、と百田は親指を立てた手で、つい今しがたも王馬を捕獲して病院の外に投げ出した彼女(彼)を指差した。
軽々ポイッと宙に放られた王馬は、舌打ちをしながら地面に着地すると、少し焦ったように赤松たちの方を振り返った。
「赤松ちゃん、ちょっと頼まれてくれない?」
「…え?」
「オレが病室に行くまで、見張っててよ」
「誰を?」
そんなの決まってるじゃん!と言った王馬の背後から、二人の人影が現れた。
王馬はその彼らを見て、目を丸くした。
「あ、お前ら…逢坂に会いに来たのか?」
日向の言葉が言い終わらないうち、王馬はまた駆け出していた。