第16章 見かけによらない
「…逢坂さん」
病室に着いて、彼女と目が合って、一瞬。
自分の心臓が、強く跳ねたのに気づいた。
『…あぁ、来てくれたんだ、最原、天海…それと、日向先輩?』
彼女の身体の輪郭は、次第に暮れてきた西陽に照らされて、薄くぼやけて見えた。
「…日向さんも、来てくれたよ。逢坂さん、大変だったね」
「怪我は大丈夫なんすか?」
「逢坂、大丈夫なのか?…悪い、俺がお前を脅かしたりしなきゃこんなことには…」
それぞれ言葉を口走る訪問者に対し、彼女は特に困惑する様子も見せずに、少しだけ笑ってみせた。
『いえ、日向先輩が謝ることでは…すみません、なんだか迷惑かけちゃって。ビビりなもので申し訳ない』
そう自虐する彼女に対し、日向さんは何度も何度も謝った後、三人で立ち寄った病院の購買で選んだ差し入れを机の上に並べた。
逢坂さんは嬉しそうに笑って、このお菓子好きなんですよー!とその差し入れに手を伸ばす。
「…あれ、赤松さんとキーボ君は?それに、他のメンバーもいたはず…っすよね」
『あぁ、喧嘩して大騒ぎして、超高校級の看護師に連れ出された』
「…なにしてんすか、揃いも揃って」
任せて!と力強く返事を返してくれた赤松さんの顔を思い浮かべる。
きっと今赤松さんは、さぞ申し訳なさに打ち震えているに違いない。
『時間を割いてくれてありがとうございます、検査入院が終わったら、ご心配をおかけしたお詫びに改めて伺いますね』
彼女は丁寧な言葉を使いながら、日向さんと、同級生である二人にも声をかけたんだと認識した。
他人事のように、あまりにも淡々としすぎているその様子に、少しだけ。
(……なんだよそれ)、なんて身勝手な気持ちを抱いた。