第16章 見かけによらない
俺の話を信じてもらえますように。
そんな願望を頭の中で唱えながら、事の経緯を出来るだけ細かく説明した。
どぎまぎとしながら話し終わった俺が口を閉じたのを見て、最原と天海はじっと、見つめ合った。
「…なるほど」
「……じゃあ、問題はどうして逢坂さんが学園長室からそんなに慌てて出て行ったか、って事っすね」
「……え?」
拍子抜けするほど、二人はあっさりと俺の話を受け入れてくれた。
「やけに、素直に信じてくれるんだな?」
その反応を見て、今度は俺が二人を疑うような気持ちが生まれてしまう。
恐る恐る伺った俺に、最原が答えた。
「…その、あまり良いことではないのかもしれないんですけど…僕たち、嘘は吐かれ慣れてるので」
「…え?」
「日向さんは嘘をついてるように見えないんすよね。もちろん、逢坂さんにも会ったら同じことを聞いて確認するっすけど」
ははっ、と軽く笑った天海を見て、遠巻きに俺たちを観察していた女子グループがジタバタと暴れたのを、視界の端に捉えた。
「僕たち、これから病院に行くんですけど、日向さんはどうしますか?」
「……あ、できれば、逢坂に謝りたい。俺があんな足場の悪い場所で脅かさなければ、怪我することもなかっただろうし」
「じゃあ、俺たちと一緒に行きましょっか」
ようやく視線が柔らかくなった天海に、少しだけホッとした。
あぁ、頼む。と返事を返して、二人に並んで歩き出した時、天海が「もう一つ聞いておきたいんすけど」と笑いながら、尋ねてきた。
「日向さんは、王馬君とは一切関係ないんすよね?」
「…王馬?…あの、女子に結構可愛いって人気の小さいやつだよな?あいつがどうかしたのか」
俺は逢坂に何か差し入れでも買おうと考えて、財布の中身を確認した。
よし、飲み物とスナック菓子くらいは買っていける。
そう値踏みして、顔をあげた。
「…天海くん」
最原が、天海の名前を呼んだ。
それだけで、天海には最原の言いたいことが伝わったようだった。
「……ははっ、考えすぎだったみたいっすね」
そうやって渇いた笑いを浮かべた天海を最原が見つめ、何かを言いかけて言葉を飲み込んだ。
俺はそんな二人の空気を不思議に思いこそすれ、彼らの事情に深く踏み込むことは良しとしなかった。