第16章 見かけによらない
追いかけて、という俺の言葉に反応した天海が、ゆっくりと腕を組みながらまた問いかけてきた。
「……失礼っすけど、逢坂さんは日向さんから逃げたわけじゃないんすか?」
「違う、学園長室では何もなかったし、俺も誓って逢坂に逃げられるような真似はしてない!」
「でも食堂の入り口で逢坂さんの腕、掴んで引っ張ってたのを狛枝さんに止められてたっすよね」
「…え?」
天海に言われて、俺は食堂で狛枝と出くわした時のことを思い出した。
確かに俺はあの時逢坂の腕を掴んだが、それは一瞬の話だ。
逢坂にもその場で謝罪したし、彼女もそのことについて深く言及してくることはなかった。
(…というか…天海は確か、逢坂と一緒のテーブルに座ってたよな?あの距離から、一部始終を見られてたってことなのか?)
そういえば、天海と逢坂は、予備学科生の間で、美男美女カップルだと噂されていたのを聞いたことがある。
この天海の張り詰めた雰囲気からしても、どうやらその噂の真相は想像通りのようだ。
「…本当に、何もないんだよ。逢坂と俺は特に深く関わってるわけでもないし、ただの知り合い程度なんだ」
「なら、どうしてただの知り合い程度の二人が何度も学園長室に呼び出されているんすかね?そこを説明してもらわないと、日向さんの言うことは信じられないっすよ」
「……それは言えない。学校側から止められてる。それより、逢坂の怪我の具合は?何か聞いてないか?」
「逢坂さんはさっき目が覚めたみたいで、怪我も大したことないって言ってはいました」
「…そうか、よかった…!」
「…でも彼女は、僕たちを心配させないことを優先して、自分が本当に困っていたりしても、何も話してくれないような人なので」
できることなら、日向さんからも事の経緯を聞かせてほしいんです。
最原は、俺から一瞬も目を離す事なくそう言うと、俺の返事を促すかのように押し黙った。
「……悪い、言えない事以外は話せる。でも、話せないこともあるんだ。…約束してくれ、必ず俺の話を最後まで聞くって」
「ありがとうございます」
何か言いたげに口を開いた天海は、ためらう事なく答えた最原に同意することにしたらしく、何も言わずに俺を見つめた。