第16章 見かけによらない
俺の名前は日向創。
希望ヶ峰学園に通う、ただの予備学科生だ。
学園長室から飛び出した逢坂を追いかけ引き留めたつもりが、結果として彼女を階段から突き落とすことになってしまった。
その現場に居合わせた本科の生徒に問い詰められ、咄嗟に、俺は関係ないと言い張り、逢坂が病院へと運ばれるのを見届けた後、転がり込むように予備学科の校舎に逃げ込んだ。
けど、逃げ切れるわけもなく。
本科の生徒が予備学科の校舎に立ち入ることなどそうないため、周囲の羨望と妬心を含んだ眼差しを一身に受けながら、二人の男子生徒が俺を訪ねてきた。
そのネクタイの色と厳しい剣幕から察するに、彼らは逢坂の友人たちなんだろうと推測できた。
「やぁ、呼び出してすいません。…単刀直入に言わせてもらうんすけど…先輩は逢坂さんが階段から落ちる時、側にいましたよね?食堂から一緒に学園長の所へも向かってましたし」
一人は、確か天海と言ったっけ。
彼は俺とあの階段で鉢合わせたし、動揺して校舎に戻った俺を疑ってかかるのは当然だろう。
「…天海くん、とりあえず名乗った方がいいんじゃないかな?先輩はその場に居合わせただけかもしれないし」
俺から視線を外そうとしない天海を落ち着かせるかのように、もう一人の大人しそうな男子生徒が声を発した。
「それもそうっすね。…すいません、ちょっと落ち着くんで。…じゃあ、改めて。俺の名前は天海蘭太郎っす。一応、逢坂さんの友達なんで、昼休みの事を詳しく知りたいんすよ」
「最原終一です。…あの、逢坂さんが階段から落ちる時、先輩はその場に一緒にいたんですか?」
その二人の様子を見て、俺はひどく動揺している自分の心情がダダ漏れになっていないか、不安になった。
「…俺は、日向創だ。俺たちは…その、ある件のことで一緒に学園長から呼び出されてたんだ。だから、今日の昼も一緒に学園長の所へ行った。けど、逢坂は急に学園長室から出て行って、そのままものすごいスピードでその場から離れて行った」
「…じゃあ、逢坂さんは階段を駆け降りようとして、一人で落ちたってことですか?」
「いや、違う。俺は駆け出した逢坂を見て、引き留めなきゃいけない理由があったから、あいつを追いかけて、階段で捕まえた」