第15章 変わり者の幸福論
「信じてあげてもいいよ、いつか裏切られるってわかっててもさ」
王馬はいつものような笑みを浮かべて、逢坂を悠々と見下ろした。
身体に手を這わせ、じっと逢坂の目を覗き込んでくる彼の真意は、いつものように簡単には掴めない。
「オレに雪ちゃんを全部くれるんだもんね。なら、オレも何か雪ちゃんに返さないとね。それじゃなきゃ…対等じゃないからさ」
『……対等?』
「ただの唐揚げの話だよ」
『……唐揚げ?』
「こじらせてる雪ちゃんの処女をくれるって相当思い切ったことするよねー。だったらオレも、いつか雪ちゃんがオレと一緒に生きることを選んでくれるかも、なんてナノ1%しかない可能性に想いを馳せて、今日の所はお茶を濁してあげることにするよ」
『こじらせてる、は余計では…?』
「でもさ、オレの側にいて危険に身を置くことは変わりないんだから、自分でももっと警戒してよね。オレも今まで以上に雪ちゃんのこと、守れるように動くけどさ」
『…私ってそんなに何回も殺されかけてたの?』
「オレが動かなかったら18回は死んでるよ」
『………わぁ』
「大丈夫だって!オレは超高校級の総統だからね。好きな子1人くらい、何に代えたって守ってあげるよ」
王馬は逢坂に口付けをして、また不敵に笑ってみせた。
『……守るとは思えない体勢だけど』
「正念場で逃げようとするからでしょ。病院だからダメなんて意味わかんないし」
『私は王馬のモラルが意味わかんない』
「そこにベッドと個室があれば、オレたちの愛を育むに必要なものは何もないよ!」
『鍵もプライベートな空間もなきゃダメだから!』
「あっ、でもゴムは要らないんだね?オレが考えた退学理由のアイデアに乗ってくれて嬉しいよ!」
『一番必要!!!』
二人でおかしな体勢のまま言い合いを続けていると、遠くから、ガシャガシャ、という機械音が聞こえてきた。
ものすごい勢いで近づいてきたその機械音は部屋の扉の前で止まり、ノックも一切の躊躇もすることなく、扉が開け放たれた。
「博士、怪我は大丈夫ですか!!?」