第15章 変わり者の幸福論
「………跡つけたらさぁ、医者に見られたら恥ずかしい思いするかなぁ」
『……え?』
「まぁ、いっか。雪ちゃんを全部オレにくれるんだもんね」
『…っいた………』
王馬が胸にキスマークを落としていく。
3、4箇所つけ終わると、ようやく彼は顔をあげて逢坂を見た。
「…オレいまスゲー幸せだよ!」
『……嘘?』
「ううん、これは本当。受け入れてもらえたってだけでもう十分過ぎるくらい十分」
『…よかった』
「…嘘だよ。十分なわけないじゃん。今すぐめちゃくちゃにしてやりたくて堪らないよ」
『………。』
してもいいよ。
彼女はそう囁いて、王馬の頬を撫でた。
その言葉と態度に、王馬は、ゾクッと自分の中の何かが黒く蠢いたのを感じた。
『…でも、病院だから今はもうダメ』
「……病院だから何?関係ないよ」
『えっ、あるよ。いつ誰が来てもおかしくないんだから』
「続きしよ」
『しないって、ちょっと落ち着いて!』
「え?落ち着いてるよ?落ち着いて雪ちゃんを可愛く鳴かせてやる気満々だよ」
『落ち着いてないよそれは!』
慌てて胸元を正すが、王馬が腕を組み敷いて、抵抗を押さえ込む。
すっかりスイッチが入ってしまったらしい王馬はスカーフを雑に取って、数秒もしないうちに逢坂の両手を縛り上げた。
「そういえばさー、よく世間で聞くよね?」
『この状況でよく世間話しようと思えるね…!?』
「絶対に手放したくないから孕ませたとかいうクズ男の理論」
『………………………………』
「にしし…そんな顔真っ青にしないでよ。なんか急に思い出しちゃってさ。雪ちゃんはさ…ほら、別に深い意味はないんだけど、そういう考え方、どう思う?」
『最低だと思う』
「えー、オレは良い考えだと思ったんだけどなぁ」
『そんなことをしたら二度と会わないから』
「あはっ、嘘だよ!学校を辞めるのに手っ取り早い理由だなーとかそんなこと考えたりするわけないじゃん!オレは雪ちゃんのこと、絶対に逃がさないって胸に誓ってるんだから」
『……ダメだ、怪しすぎて何も信じられない…さっき別れ話を持ちかけて言うこときかせようとしてた人の言葉とは思えない』
「えーなんの話?オレと雪ちゃんが別れるわけないでしょ?心外だなぁ!」
『いや、だから……!』