第15章 変わり者の幸福論
『……あげるよ』
唐突に、沈黙を破ったのは逢坂だった。
逢坂の足に座ったまま、無言のままだった王馬の視線が少し動いて、逢坂に注がれた。
「…なにを?」
『…あげられるものは、全部。私の生きる世界と、友達と、みんなと過ごす時間以外全部』
「………雪ちゃんをくれるってこと?」
『…欲しいなら。王馬にあげるよ』
逢坂は胸元のボタンを一つ外して、途方にくれたままの王馬の顔色を伺った。
少し露出された彼女の胸元に視線を落とすことなく、王馬はただじっと、逢坂の瞳を見つめたままだった。
「……本当にいいの?」
『……それで、王馬が安心してくれるなら。過去を話してくれる気になるなら。王馬がどうしてそっちの世界で生きてるのか、知らないと私も判断できないし』
「…オレにばかり都合がいい展開になってるとは思わないの?難癖つけてけが人の雪ちゃんにわがまま言ってるのはオレなんだよ?」
『…わがままって自覚があるならまだいいよ。そんな顔してるってことは王馬自身感情をコントロール出来ないんじゃないの?』
「…うん、そうだよ。そんなカッコ悪い男に抱かせていいの?初めてなんでしょ?」
『……カッコ悪いとは思わないよ。そんな風になるまで、私を求めてくれて嬉しい』
「………嬉しい?雪ちゃんって結構マゾヒストの気があるよね。調教したら本当にオレだけしか見えなくなったりするのかな」
『…マゾとは違うと思うけど。痛いの嫌いだし。求め方によるよ』
「ふーん…でも相当変わってるよね。普通の子ならもうとっくにオレの前から逃げ出すか別れ話してるところだよ」
『……変わっててもいいよ。王馬が好きになってくれたから』
逢坂の口を塞ぐように、王馬がキスをした。
のしかかるような彼に押されて、ベッドに倒れこむ。
唇が離れた瞬間、一瞬目が合って、またキスを繰り返した。
患者服の襟元を王馬が乱し、初めて目にした彼女の下着から見える艶やかな胸元を、舌先で舐めた。
『……っ』
何度か繰り返されるキスと、吸い付かれる感覚に、恥ずかしさが込み上げてくる。