第15章 変わり者の幸福論
「雪ちゃん、オレと…」
オレと、別れてよ。
「………」
『……なに…?』
「…………」
オレと別れて。
「………オレと…」
逢坂は、王馬を腕に抱きしめ直し、耳元で囁いた。
『……王馬、私はいつ死んでもいいって言ったよね』
彼女の口から出た「死」という単語に、王馬の肩がビクッと震える。
その反応を見て、逢坂はもう一度、強く、王馬の身体を抱きしめた。
『幸せなんだよ。すごく。今が』
「……オレは、嫌だって言ったよね」
『いつも王馬ばかり、わがまま言いすぎだと思わない?』
「そんな笑えないわがままは、わがままじゃないし。自殺願望なんてつまらないものさっさと捨てちゃいなよ」
『王馬と一緒にいたいと思うことはわがままなの?』
「だから、オレといたら遅かれ早かれ酷い目に遭って死ぬことになるんだって」
『人は誰だって遅かれ早かれ死ぬよ』
「そんなの屁理屈じゃん!」
『うーん。屁理屈の一つや二つ、簡単に思いつくんだよね』
「…は?なにそれ」
『だから王馬が私の側にいていい理由くらい、いくらでも一緒に考えてあげるよ』
「………」
『例えばさ』
彼女は一つ、二つ、と指を折って、王馬の耳元で言葉を紡ぎ続ける。
『映画の趣味が合うから、誰かと観たい時に王馬がいると嬉しい』
「そんなの代わりがきくよ」
『悪夢を見た時、隣に王馬がいれば、面白い話を聞かせてくれる』
「芸人と付き合えば?」
『1日の終わりに王馬が一緒だと、大して良いことのなかったはずの1日が、今日も良い日だったなと思える』
「…いつも独りだったからでしょ」
『王馬にも話せるような面白い出来事を探そうって、周りの景色をよく見るようになる』
「………よくそんなにポンポンと出てくるよね。無駄に機械に強いだけじゃないんだ」
『いつも感じてることだからね』