第14章 歪な恋心
いつまで経っても、ということは、ずっと前から、逢坂の周りで何か悪意が蠢いているのを彼は知っていたということなのだろう。
『……言えないからだよ』
「どうして?」
『仕事の話だから』
王馬はそこで、口を閉じるしかなくなった。
この会話が、二人の立場が逆転した状態で、いままで何度も繰り返されて来たことに気づいたからだ。
「……雪ちゃんが巻き込まれてるのはさ、全部あの学校のせいでしょ?」
彼は逢坂の腰を締め付けないように、自分の拳に力を込めた。
逢坂は王馬の頭を撫でて、答えられない、ごめんね、と囁いた。
「…答えなくたってわかるよ。学園長と、あの予備学科生と関係があるんでしょ。何度か呼び出されてるし、その度に途方にくれてるもんね」
『……』
「分かり切ってることなんだからだんまりはやめてよ。…じゃあ、質問を変えようかなぁ。階段から落ちたのはさ、本当にオレのせいじゃないの?」
『………どうして、王馬のせいになるの?』
「…………」
答えない彼の、真意を考える。
ガラスに反射して映る彼の表情は、今にも泣きそうで。
そんなに彼の感情がむき出しになった表情を見るのは久しぶりだったから、つい、言葉に出してしまった。
『…王馬が泣くのは婚姻届が埋まった日…じゃなかったっけ』
「……何言ってんの、泣いてないし」
『…泣きそうだから』
「……は?…見えないじゃん」
『…まぁ、見えないってことでもいいけど』
ガラス越しに彼と目が合って、王馬はものすごく悔しそうな顔をした後、すぐさまガラスの反射では見えない逢坂の頭の後ろに顔を隠した。
そして、逢坂のうなじに顔を埋めると見せかけて頭突きをしてきた。
『ぐっ……地味に痛いしくすぐったい……』
彼はまた無言に戻り、それでも、逢坂の背中からは離れようとしない。
『……あぁ、オレのせいってそういうことか』