第14章 歪な恋心
「すみません、あの」
授業が始まるチャイムが校舎に響き、何かを言いかけていたキーボが口を噤んだ。
「キーボ君、どうしたんすか?」
教室に揃っている人間の顔と数を観察し、キーボは一つの疑問を口にした。
「王馬クンは、いつからいなくなったんでしょうか?」
「……え?」
授業の開始時には、いつもよりぼんやりとした顔で最後列の座席に戻ったはずの王馬。
しかし逢坂から連絡が入った時も、王馬は集まってくるメンバーの中にはいなかった。
それなら、それより以前に彼は教室を出ていたということだろうか。
「…授業が終わってすぐ逢坂さんに会いに行ったのかも」
「王馬くん、ちょっと変な感じだったよね?大丈夫かな」
「…そもそも、今回の出来事って王馬君は関わってないんすかね?」
「え、どうしてですか?」
「彼は、闇社会の総統…みたいじゃないっすか。その話が本当なら、あれだけ王馬君が好意を寄せてる逢坂さんが危ない目に遭うのもおかしな話じゃないっすよね」
「…うーん、まだわからないよ。とりあえず、その予備学科の生徒に話を聞くまでは、何が真実かはわからないんじゃないかな」
それぞれの座席についたまま会話を続けていたが、教師が教室に入ってきたことで、議論は中断となった。
(……天海くん、王馬くんのこと疑ってるのかな)
最原には、昼休みがあけてからの天海の顔が、なんだかずっとこわばっているように見えていた。
天海は王馬と逢坂が付き合うようになってから、どこか空気が張り詰めている気がする。
みんなの前では笑っていても、気づくと、思い詰めた表情をしている時が多々あることを、最原は知っている。
(……もしかしたら)
倒れている彼女を、王馬くんと二人で見つけた時。
その時の王馬くんの反応に、何かおかしなことがあったんだろうか。
天海くんしか知り得ない、その時の出来事に何か手がかりが。
(…いやいや、まだ王馬くんは無関係かもしれないし)
最原は考えをクリアにしようと、頭をブンブンと横に振り、背後に座る茶柱から、「鬱陶しいですよ男死」と手厳しい指摘を受けた。