第13章 鈍く冷たく赤い
なぜ
あれほど穏やかな笑みを浮かべていた学園長を、恐ろしいと感じてしまったのか
逢坂は、人の声がする方へ向かって校舎を駆けながら、頭の中で問いかけた。
何度問いかけてみたところで、思いつく理由はただ一つ。
学園長は笑っているように見えるだけで、本心からの笑みを一切見せたことはないからだ。
ああいう笑みを浮かべる大人が、目的を果たす為なら手段を選ばないことを、逢坂は知っている。
この学園の学園長は、逢坂がいた児童養護施設の施設長にそっくりだ。
優しいふりをして、子どもを道具としか考えていない。
最低で最悪の、恐ろしい人種。
(……っ逃げたって意味ないのに……)
考えるよりも先に、身体が危険から逃げ出したがっていた。
人気のない選択教室だけが並ぶ廊下を駆け抜けて、突き当たりにある階段が見えてくる。
緊張していたせいか、鉛のように重たくなってしまった逢坂の足がもつれそうになり、階段を降りる手前で一度立ち止まる。
『…っ………はぁ……』
久しぶりに、こんなに必死に走った気がする。
息を大きく吸い込んで、深く吐いた。
深呼吸を繰り返しても不安感は拭えなかったが、階段下から聞こえてくる生徒たちのざわつきに、少しだけホッとして、足を踏み出した。
「待ってくれ、逢坂!」
不意に後ろから誰かに掴まれた左腕を、恐怖心のままに振り回した。
引き止めてきた相手の正体。
冷静に考えることが出来たなら、その声と、状況で誰かなんてわかったはずなのに。
『っ…離して!!』
けれど逢坂は、冷静ではいられなかった。
「おい…ッ!?危ない!!」
掴まれていた左腕が自由になった時。
逢坂は腕を振り払う反動で、追いかけてきた彼を振り返る体勢になった。
あぁ、なんだ、日向先輩か
そう理解した瞬間、バランスを崩した逢坂は階段から足を踏み外した
ガッ
ゴツ、ガンッ、ゴッ、グシャッ