第13章 鈍く冷たく赤い
『……行きましょうか、日向先輩』
「……あぁ、さっきは急に触れて悪かった」
『いえ、構いません。…じゃあ、狛枝先輩、失礼しますね』
「あれ。逢坂さん怒った?ごめん、引き止めてまで声をかけて…うっとおしかったかな」
『…それで怒ってるわけじゃありません』
「あ、本当に怒ってるんだ。珍しいこともあるんだね!レアなキミを見ることができて、嬉しいよ…あのさ、逢坂さんが怒ってるのって、もしかして日向クンに冷たくしたから…とか、そんな小さな理由だったりしないよね?」
『小さくはないと思いますが。私に謝って、日向先輩に謝らない態度に怒ってます』
「あぁ、そっか。確かにそれはまずかったね。ごめんね日向クン、でもキミの態度も良くないと思わない?ボクの目の前で軽々しく逢坂さんに触れたりするからさ。自業自得だよね」
『日向先輩が私に触れようが、私と日向先輩が仲良くしようが、狛枝先輩には関係がないことだと思います』
「えっ………うん、残念ながらそうなんだよね。噂通りなら、逢坂さんはもう王馬クンと付き合ってるみたいだし」
ホント、残念だよ。
彼は疲れた笑みを浮かべたが、逢坂は反応せず、では失礼します、と言い残して狛枝の横を通り過ぎた。
「あっ、おい逢坂」
日向が後から追いかけてきて、二人でようやく食堂を後にすることができた。
逢坂はジッと日向を睨みつけ、不満げに声を発した。
『なんでですか?』
「……え?何がだ?」
『なんで、反論しないんですか』
「…反論も何も…」
『私への接し方と、日向先輩への接し方、全く違いましたよね。なんで怒らないんですか?どうして黙ってるんですか』
「……それは…」
日向は、ようやく痛みが消えてきたのか、手首を押さえるのをやめた。
少しの間、二人の間に沈黙が流れる。