第13章 鈍く冷たく赤い
席を立とうと座席を引いた時、ゴッ、という鈍い音と、いてっという声が後ろから聞こえてきた。
「っ………あ、逢坂。これから学園長の所に行くのか?」
『…日向先輩』
逢坂の背後に近寄って来ていたのは、予備学科の一年先輩である日向創だった。
こちらの校舎に来てるのは珍しいですね、と声をかけると、日向は、俺も呼ばれてるんだ、と返事をした。
日向が、雑談をやめて二人の会話を聞いている王馬たちに気まずい視線を送っていることに気づき、逢坂はとりあえず歩きましょうか、と提案した。
大勢が行き交う食堂を出入り口に向かって進んでいると、二人の進路を塞ぐ人が現れた。
「やぁ、逢坂さん、日向クン。どうして二人が連れ立って歩いてるの?」
「…狛枝。なんだっていいだろ、そこ通せよ」
「あれ、やけにつれないんだね。なんだってよくはないよ、だってさ…何の才能もない日向クンがこっちの校舎にいるってだけで珍しいのに、接点があるはずもない逢坂さんと歩いてるなんて不自然過ぎるよ。これからどこへ行くの?」
(…狛枝先輩、やけに日向先輩に噛みつくんだなぁ)
逢坂が狛枝と言葉を交わす時、大抵彼はいつもにこにことして、柔らかな印象が強い。
たまに変な事を言い出すことはあったが、日向のように冷たい言葉をかけられたり、嫌味な態度を取られたこともない。
「別に、隠すようなことでもないけど、言うなって言われてる以上は言えない」
「へぇ、それって誰に?」
「学校側だよ。分かったらそこを通してくれ」
「…は?…逢坂さんならまだしも、なんで平凡な予備学科生でしかない日向クンに、学校側から働きかけたりするのさ」
「…行こう」
逢坂の片手首を掴み、日向が狛枝の横を通り過ぎようとした。
狛枝はじとっとした目でその日向の手を眺めていたが、身体を日向の方へ向けるより先に、後ろ手でその手首に掴みかかってきた。
「ねぇ、なんで日向クンって逢坂さんに対してまるで対等な態度が取れるの?「こっち」の生徒のボクだって、畏れ多くて話しかけるには躊躇するし、触れることなんてなおさらおこがましいって感じるのに」
その手、離しなよ。
狛枝は手の甲に筋が浮かぶほどの力を入れて、日向の手首を逢坂の手から引き剥がした。