第13章 鈍く冷たく赤い
「…星だ。宜しく頼む」
縦に四列、横に四列、窓際の列だけ一つ座席が多い計17席ある座席の、窓際の最前列に座った彼が短い自己紹介を終えた。
星、と名乗った彼が座席に腰掛けるのを待たず、その後ろに座っていた島国風な容姿の女子は、立ち上がった。
「夜長アンジーだぞー!好きなものはアボカドでー、ナンデモカンデモ中学の出身でー、今一番神ってる美術部員だよー!」
(((((ナンデモカンデモ中学……?)))))
クラスの全生徒たちが不可解な視線を夜長、と名乗った彼女に向ける。
夜長は、にゃはは、と声を出して微笑み、座席に腰掛けた。
その彼女の背後に腰掛け、彼女よりも人目をひく長髪を揺らした、不気味な容姿の男子生徒が起立した。
「真宮寺是清…超高校級の民俗学者だヨ。そうだネ、夜長さんの自己紹介に則るなら…好きなものは、荒縄。よろしくお願いするヨ」
(((((よろしくしたくない……!)))))
常識的に聞こえる声色で発せられた真宮寺の言葉の中から、ヤバすぎる嗜好が露呈した。
窓際の前から四番目、ちょっとした大喜利のようになってきた雰囲気を引き締めるように、春川が起立した。
「…春川魔姫。…超高校級の保育士。でもあんまり子どもは好きじゃない」
真顔でしれっとキャラの濃い発言をする春川を見て、隣の座席の百田が噴き出した。
小声で浴びせられた「殺されたいの?」という彼女の口癖を、彼は笑って受け流す。
「オラァ、そこ喋ってんじゃねぇ!今は天才すぎる美人発明家、入間美兎様の時間だろうが!眼球ひん剥いてその目にオレ様を焼き付けやがれ!フニャチン共、オレ様を視姦し放題の一緒のクラスになれて良かったなぁ!ひゃーひゃっひゃっひゃ!」
窓際の列の、最後尾。
1人だけ隣のいない座席に座る彼女。
入間の座席の孤独感を気の毒に思った生徒もいたが、彼女の残念極まりない自己紹介を聞くうち、同情を寄せていた数人の生徒は自分の考えを撤回した。
入間は、仁王立ちでの自己紹介を長々とした後、ようやく乱雑に腰掛けた。
逢坂の前に座るキーボが振り返ってきた。
「フニャチンとは誰のことですか?」
逢坂に真顔で聞いてきたのを見ていた王馬は、ぶっは!と噴き出した。
『前を向いて』と促してすぐ、さきほど逢坂に「東条」と名乗ってくれた生徒が話し始めた。