第13章 鈍く冷たく赤い
「貴方たち、そろそろHRが始まるわよ。仲が良いのは良いことだけれど、担任の先生が来る前に、席に着いた方がいいわ」
『あ、うん。ありがとう……えっと…?』
「お礼なんていいのよ。私はクラスの他の人たちのために進言したまでだから」
私は東条斬美、よろしくお願いするわ、逢坂雪さん。
落ち着いた雰囲気を身に纏った彼女は、ショートヘアの毛先を少しだけ揺らしながら、自分の座席へと戻っていった。
また大喧嘩に発展しそうな王馬たちを解散させ、もみくちゃにされていたキーボを助け出し、逢坂も座席へと腰掛けた。
逢坂の席は、廊下側から数えて二列目の、最後尾だ。
「あ、よかったー座席は希望通り雪ちゃんの隣だ。鞄運んでくれてありがとね、雪ちゃん!」
(希望通り…?)
王馬の席は、一番廊下側の、最後尾。
彼は先ほどまでの険悪な場を生み出したとは思えないほど、清々しい笑みを浮かべている。
逢坂はその笑顔を見て少しだけ安心し、微笑み返した。
『……ううん、こっちこそありがとう』
「あれ?なんで雪ちゃんがオレにお礼なんて言うの?」
『……うーん?とぼけるの?』
「ねぇねぇ、そんなことより雪ちゃん、今日は学食行こうよ!いつも購買のパンだけじゃつまらないでしょ?」
いつもの調子で王馬はコロコロと話題を変え、話し終わってはまた話題を持ってきて、途切れることなく逢坂に話しかけてくる。
HRが始まり、担任に促され、それぞれが自己紹介を始めるまで王馬はノンストップだった。