第13章 鈍く冷たく赤い
王馬は、逢坂の意思を確認するように、もう一度ゆっくりと言葉を発した。
逢坂は、その彼の言葉の意図を痛いほど理解できた。
王馬が代弁してくれたからなのか、それとも別の理由からか。
さっきまで感じていた胸の奥の、言葉に表せないもやもやとした気持ちが、ゆっくりと消えていくことに気づいた。
『……ううん』
王馬に、見抜かれてしまった
『………ううん……もう、いいんだよ』
恥ずかしいなぁ。
こんなドロドロした汚い気持ちを、気づかれてしまうなんて。
逢坂の穏やかな微笑みを見て、王馬は二人に向き直ると、なーんて、嘘だよ!とふざけてみせた。
「早く雪ちゃんと話したいのに二人が出入り口の邪魔してるから、オレも仕返しに会話の邪魔してやろーと思ってさ!」
「な、なんだよ…どいてほしいなら普通にそう言えばいいだろ!新学期早々、他人の関係こじらせようとしてんじゃねぇよ!」
「雪ちゃんが春川ちゃんのこと、許してないわけがないよね!だって二人は殺し殺されかけた後だって、言葉なんてもので分かり合える大好きな親友同士だったんだもんね?」
「………雪、私さ…」
春川の言葉は、王馬の言葉の影響を受けてか、それとも初めから伝えるつもりだったのか。
その心持ちまではわからない。
しかし彼女はじっと逢坂を見つめ、はっきりとした言葉で、真意を伝えてきた。
「…もうあんたを傷つけたりしないから。あんたと対等になんてなれやしないだろうけど……でも、あんたと言葉を交わすくらいは、自分で自分を許せるようになるまで、自分に折り合いをつけて、頑張るつもり」
『…………私たちはずっと前から、対等だよ』
「…そう思いたいなら、それでいいんじゃない。なんていうかさ……」
そう思われて、嫌なわけじゃないし。と春川は呟き、また一度、視線を逸らした。