第13章 鈍く冷たく赤い
「よぉ逢坂!今年はお前とも一緒のクラスみてぇだな!」
ぼんやりと、扉の近くで回想に浸っていた逢坂の肩に、今登校してきたらしい百田が声をかけながら触れた。
『っわ!び、びっくりした…』
「わりーわりぃ!驚かせたか?」
『おは、………』
百田の肩越しに、視線を斜め下に落としたまま、正面を見ない春川の姿が映った。
『………よう……百田くん、魔姫』
「……おはよう………雪」
「あれ。なんだよハルマキ、もういいのか?」
「……うん。もう、隠れるのやめにしたから」
「そうかよ。…あーなるほど、ハルマキの雰囲気が変わったのはそのせいか?」
「ちょっと、その呼び方やめてって言ってるでしょ」
「逢坂お前、ハルマキのこと許してやったってことなんだろ?」
『……え?』
百田は、どうやら春川が逢坂から逃げるように隠れ回っていた理由を知っていたらしい。
どこか不安げに逢坂の言葉の先を待っている春川の表情を見て、詳しい詮索よりも先に、彼女を安心させることを選んだ。
『…うん』
「仲直りできて良かったじゃねぇか、ハルマキ!助手が幸せそうで安心したぜ!」
「……仲直りっていうか…それより、いつからあんたの助手になったの」
『…ねぇ、百田くんはどこまで…』
闊達に笑う百田は、臆することなく春川に言葉をいくつも投げかける。
春川は不満げに、子どものように頬を膨らませ、長い髪をまとめたツインテールの片方を、両手でぎゅっと握った。
その仕草はどこか愛らしく、きっと春川は本心から百田との会話を嫌がっているわけじゃないんだろうと想像できた。
その彼女を見て、逢坂は聞こうとしていた言葉を飲み込んだ。
そして、ふと、考えてしまった。
(…………そっか)
『…二人とも同じクラスなんだね。よろしく』
「おう、よろしくな!」
「……よろしく」
にかっと笑い、親指を立ててくる百田と、口の端だけ、少し嬉しそうに緩ませる春川。
その二人のそれぞれの笑みを見て、逢坂も微笑んだ後、一瞬だけ俯いた。
そして顔に笑みを貼り付けたまま、もう一度。
頭の中で独り言を繰り返した。
そっかぁ