第12章 キミの匂いを忘れない
それから1時間、2時間。
彼女の過去。
彼女の好きなもの。
彼女の嫌いなもの。
彼女が面白いと思うもの。
彼女がつまらないと思うもの。
たくさんたくさんガラス越しにずっと考えていた質問をぶつけて、雪ちゃんとの2人きりの時間を過ごした。
雪ちゃんは自分ばかりでずるいと途中不満そうだったけど、オレのことを一度に全部教えるのはもったいないと言い返した。
「これからずっと一緒なら、別に今全部知らなくたっていいでしょ?」
そう言うと、彼女は少しだけ眉を下げて、確かにそうだね、と賛同してくれた。
その表情を見て、オレはまた少し不安になった。
「ねぇ、本当に?」
『……どうして?嘘なんてつかないよ』
「違うよ、なんかさ…」
きっと、そうだ。
オレの「ずっと」と、彼女の「ずっと」は、違う。
「これ以上の幸せなんか無いと思ってるでしょ」
彼女はオレの言葉を聞いて、少し考える仕草を見せた後、また微笑んだ。
『…うん、実はね』
いつ死んだって構わない
彼女はそう呟いて、本当に幸せそうに笑った。
「…そんなのは嫌だよ」
オレがつまんなそうに言うと、彼女は意外そうな顔をした。
『…そう?』
「オレは雪ちゃんを見下ろすほどまだ成長してないし、世間的には大手を振ってスポーツカー運転できない年齢だし」
『……んー?それと私が死ぬこととなんの関係が』
「雪ちゃんが死んだら、オレを見上げて上目遣いになる雪ちゃんの顔が想像で終わっちゃうし、オレの車に雪ちゃん乗せて世界一周するのも夢のまた夢になっちゃうじゃん」
『あー、それは確かにねぇ』
「この話は嘘じゃないよ。いつか雪ちゃんよりずっと背が高くなって、大人になったらキミをエスコートして、すごく興奮する世界旅行に連れ出してあげるからさ」
『大丈夫、ただの例え話だよ』
「…嘘ついたら、許さないよ」
『あはは、大丈夫だって』
「オレの夢の話が嘘になるかは、雪ちゃんにかかってるんだからね。オレから逃げたら…本当に監禁するよ」