第12章 キミの匂いを忘れない
オレの言葉を笑って聞いていた彼女は、言葉のニュアンスから、オレが本気で言っていることに気づいたらしい。
彼女はオレから少し離れて、動かせるようになった片腕で、オレの頭を撫でた。
『…逃げたりしないよ。大丈夫』
「………。」
一瞬でも見逃すことがないように、彼女の挙動をじっと眺めた。
そんな監視するような目で見ないでよ、と彼女は軽く笑って、オレの視界を片手で隠した。
「…雪ちゃん」
『ん?』
「本当に今が一番幸せだと思ってるの?」
視界を遮る雪ちゃんの手を掴んで、避けた。
彼女は少し驚いた表情を見せた後、水面に笹舟を浮かべるかのように、とてもとても慎重に、言葉を選んだ。
『うん、幸せだよ』
今が一番幸せ
雪ちゃんにとっては、それはそうなのかもしれないけど
「……ふーん。でも、オレはさー…」