第11章 過ぎた日をただ思う
彼女に惹かれる一方で、そのどうしようもない虚しさを、どんなに願っても叶わない願望を、近づいてくる「同じ世界」の女で紛らわそうとした。
「ねぇ、王馬くん、私のこと好き?」
「好きだよ。ーーちゃんもでしょ?」
嘘だよ
「大好きな小吉なら、私のこと好きにしていいよ?」
「嬉しいなぁ、オレもーーちゃんのこと、大好きだから!」
全部嘘
「嬉しい、私への気持ちだけは本当だよね!」
「……バカじゃないの?嘘に決まってるじゃん」
こんな簡単な嘘も見抜けないなんて
どんなに夢中になろうとしてみても、夢中になれる女なんて誰一人としていなかった。
だってもうオレは、出会ってしまっているんだから。
ーーーキミは誰なの
オレすら騙されて気づくことができなかった嘘を、いとも簡単に見抜いた彼女。
嘘をつくことをやめられない自分には、彼女のような存在が必要だった。
大人の醜い憎悪や駆け引きが蠢くこの裏社会で、オレがどれだけ嘘に塗れて自分を見失ったとしても、きっと、彼女だけはオレに気付いてくれる。
そんな期待が、胸を支配してやまなかった。
もっと早く、この気持ちに気付いていれば。
あんな報復なんて捨て置いて、逢坂ちゃんの前に現れたのに。