第11章 過ぎた日をただ思う
そんなどうしようもない抑圧された生活を送っていた時。希望ヶ峰学園からスカウトが来た。どんな情報網を使ったのか、超高校級の極道なんて存在すら学生としてスカウトしているらしいその学園は、オレを超高校級の総統として迎えたいと申し出て来た。
まず考えたのは、秘密結社の総統が学校なんてものに通っていいものだろうかということ。
そして、その考えを数秒で肯定し、すぐに彼女のことを考えた。
(…まぁ、オレも少しは成長してるし、他人の空似程度で誤魔化せるかな。バレたってきっと、逢坂ちゃんは誰かに言いふらすようなタイプじゃないし)
色々と理由をこじつけて、入学を決めた。
もう隠れて彼女を見守るのは、限界だったから。
学校側に打診して、違うクラスにわざわざ所属させ、彼女の様子を伺った。
同じ学校にいたところで、またガラス越しに彼女を見ることには変わりなかったけど、それでも幾分マシな気分だった。
(………こっちを向いてよ)
1ヶ月、2ヶ月。
ガラスの向こうの彼女の横顔を、ただただ見つめ続けて。
闇社会の住人である自分から、彼女に近づくことはどうしてもはばかられ、距離を詰めようとは思えなかった。
「………あ」
夏の、ある日。
彼女と目が合って、反射的に思ってしまった。
嬉しい
本当なら、彼女の反応次第で間宮ちゃんのことを黙らせるか、どうにかしなくてはいけなかったのに。
手を振って、笑いかけると、彼女もゆっくりと手を振り返してきた。
言葉も、声も、何も届いていないのに、彼女が反応を返してくれただけで嬉しくて。
もう、どうでもいい
間宮光のこと。
秘密結社の総統としての自分の立場。
超高校級の総統としてのプライド。
全てがどうでもよくなった。
欲しくて欲しくてたまらなくなった。
誰にも渡したくない、誰にも触れさせたくない。
逢坂雪が、欲しい