第11章 過ぎた日をただ思う
王馬と距離を置いてから、しばらくはずっと光くんのことだけを考えた。
優しく笑いかけてくれた彼の笑顔や、話したこと、葬式場には火傷が酷すぎて、運ばれて来なかった悲惨な死体のこと。
考えれば考えるほど自分の無知さや世間知らずな部分を嫌悪して、どうしようもない後悔に襲われた。
そして、そんな彼の死をいつもと変わらない調子で語って聞かせた王馬のことも、責めずにはいられなかった。
けれど、突き飛ばした時の王馬の悲しげな表情が頭から離れることはなく。
王馬を信じたい気持ちから、いつも意味深な言葉回しをする彼の言葉を頭の中で反芻した。
すると、一つの可能性にたどり着いた。
間宮光が生きている可能性だ。
『…王馬』
「なぁに」
ただ、それを確かめる方法が、今となっては王馬の証言を得ることしかない。
彼は秘密結社が明るみに出るようなことは絶対に答えないだろうし、人を一人殺すとするなら、その情報を伝えている人間は限られているだろう。
『……私が聞いたことに答えてくれたら、好きって言ってあげる』
「…何が聞きたいの?またオレにあんな蔑むような目を向けるなら、逢坂ちゃんとはいえ許さないからね!いいよ、どうぞ!」
『王馬の組織は、ユーモアがあってハイセンスな、つまらないことはしない組織…なんだよね』
「そうだよ!なんだそんなこと?いつも逢坂ちゃんに話してる通りだよ」
『光くんを殺したのは、王馬のため?それとも彼のため?』
「……ちょっと、ひと月考えてその結論?がっかりさせないでよ」
『血生臭い話をしてるんじゃないよ。でも結果的に、彼が死んだとして、私にはもっといい方法があったとしか思えない』
「………」
『だから聞いてるの。光くんを「消した」のは、王馬の為?彼の為?』
王馬は逢坂を大きな目で見つめて、悔しそうに、嬉しそうに、口を緩ませた。
「もちろん、彼の為だよ!」
『……嘘ついた。はい、好きって言ってあげません』
「えーなんで!嘘ついちゃダメなんて一言も言ってなかったじゃん!」
『ダメです。帰るよ』
「好きって言ってよー!会いに来るの1ヶ月も我慢してたんだよ⁉︎罪もない一般人のオレに1ヶ月も疑惑の目向けといて、自分は暗殺者と遊んでるなんてひどいよ!」
『…魔姫のことも知ってるのか。秘密結社って敵に回したくないね』