第11章 過ぎた日をただ思う
親もお金も才能も何もない。
唯一、側にあったのは、いつもクリスマスにプレゼントをくれる友達だけ。
施設がなくなって雪とバラバラになるなんて考えたくもなかったから、自分の手を血に染めた。
なのに、ズタボロになっていく自尊心がそのうちコントロール出来なくなって、まともな生活をしている彼女が疎ましくなった。
自分とは違って、頭が良くて、人を幸せに出来る才能を持つ彼女が、嫌いになっていった。
ーーーこんなガラクタいらない!!!
「…あんたが…どこかで私のこと、馬鹿にしてるんじゃないかって気がしてた。だって私は…私には、保育士なんて才能無かったんだもん。私にあったのは人を殺せる残虐さと覚悟だけ」
ーーーほおっといてよ!!!
「私……っあんたのこと嫌いじゃなかった、学園であんたを見かけてからも…ずっと声をかけたかった、でもさ……」
ーーーあんたなんか……あんたなんかいらない、友達じゃない!!!
春川は、子どもの頃と変わらない泣き顔で逢坂を見つめた。
逢坂を殺しかけたあの時に見せた、苦しそうな表情のまま、訥々と、言葉を繋げた。
「自分はあんなこと言ったのに……あんたに謝って、突き放されるのが怖かった」
涙で滲んで、前が見えない。
今の自分は隙だらけで、きっと誰だって簡単に、自分のことなど殺してしまえるだろう。
そんな物騒なことを考えてしまう自分にも嫌気がさす。
自分が嫌いで、情けない。
もし、もしも雪が許してくれなかったら。
想像しただけで怖くて何もできなかった。
だって、自分はただ一人の友達を手放したくなかったがために、裏社会に身を投じたんだから。
彼女に否定されてしまったら、自分には何も残らない。
私が超高校級の保育士なんて嘘。
本当は、超高校級の暗殺者なんだよ。
そう言い終わる前に、雪は私を抱きしめて、わかったよ、とだけ一言、答えてくれた。
「……ごめん…雪、ごめんなさい…」
『…大丈夫、何も知らなくてごめん』
「きっと許してくれるだろうって分かるまで…っ謝れなくてごめん…!卑怯でごめんね…!」
春川は、何度も何度も、ごめんなさいと繰り返して、しばらく逢坂の腕の中で泣きじゃくっていた。