第11章 過ぎた日をただ思う
それでなくとも、あの頃春川は精神的ストレスから身体に不調をきたしていた。
より暗殺者として身を落とす為には、「友達」なんて存在は不要だと判断されたんだろう。
(…まぁ、少し手を出したつもりがあんな大怪我させることになるなんて、そんな危ないヤツと一緒にいるよりマシだったんだろうけど)
「お待たせしましたー!」
店員がパフェを運んできて、逢坂は顔をパァッと綻ばせた。
陰鬱な気分の自分とは対照的に、逢坂はどこか楽しげに見える。
(…なんで?私なんかと一緒にいるのに)
本当に、気にすることないなんて思っているんだろうか。
こんなにも綺麗な顔が二倍に膨れ上がるまで殴り続けた自分と、本当に仲直りなんてしたいんだろうか。
「……あのさ」
『美味しい。魔姫も食べなよ』
「……」
促されて、スプーンを手に取った。未だに店内の明るく楽しげな雰囲気に馴染めず、体温を失っている指先から、やけにスプーンが冷たく感じる。
「……!」
逢坂が頼んでくれた木苺のパフェは、本当に美味しくて、一瞬気がほぐれた。
『美味しい?』
そう嬉しそうに聞いてくる彼女は、きっと自分の顔色が微妙に変わったのをわかって、問いかけてきているんだろう。
「………美味しい」
初めて食べた、と呟くと
逢坂は、本当に優しく笑って
それは良かった、と穏やかな声をかけてくれた