第11章 過ぎた日をただ思う
逢坂は、いつか天海と訪れた駅前のカフェに春川を連れてきた。
甘いものが好きなイメージがあったのだが、あまりそういったところに立ち入らないのか、どこかギクシャクとして落ち着かない春川を観察した。
『ここの紅茶パフェ結局食べれてなかったんだよね。魔姫は何食べる?』
「…あのさ、寄り道したいなら他のヤツでよかったじゃん。なんでわざわざ私なわけ」
『仲直りしようよ』
「…はぁ?」
逢坂はメニューから目をあげることはなく、ただじっと美味しそうなパフェに夢中なようだ。場違いとはいえ、もう二人席に通されてしまったし、帰るといえば店員の手前、逢坂が気まずい思いをするだろう。そう考えて仕方なく、メニューに視線を落とした。
「……どれでもいい」
『じゃあ決めるね。すみませーん』
逢坂は店員を呼び、メニューを指差しながら注文をした。
『紅茶パフェと、木苺のパフェお願いします』
(………苺、好きなの覚えてるんだ)
嬉しいような、申し訳ないような気持ちになる。逢坂を盗み見ると、彼女はおしぼりの袋を弄んでいた。昔から手遊びをする癖は変わっていないのだと知った。
昔から伸ばしている逢坂の綺麗な髪に視線が止まり、ぼんやりと、風呂上がりの濡れた髪を乾かしてあげていたっけ、と思い出した。
懐かしくて、むず痒くて、居心地が悪い。
私はこの子の整った顔が目も当てられなくなるほど腫れ上がるまで、殴り続けたのだという罪悪感が、喉を干上がらせていく。
『魔姫はどのクラスなの?』
「……ぁ………1-A」
『そうなんだ。全然知らなかった。…隠れてたの?私から。それは生活しづらくない?』
「……合わせる顔なかったし。もうあんたと何を話せばいいのかもわからなかったから」
『そんな理由?なら気にすることないのに』
「……」
逢坂を春川が殺しかけた後。
大人たちが間に入って、二人を引き離した。
成長し、超高校級のロボット博士と名を冠するようになるまでの彼女の才能の頭角を、大人たちが見逃さなかった。
いずれ表舞台に立つ彼女と、裏社会に身を染める春川を引き離すには充分なタイミングだった。