第11章 過ぎた日をただ思う
「えっ……死んだふりってことですか?」
オレの計画を聞かされた間宮ちゃんは、少しなにかを考えた後、構わないのでお願いします、とやけに素直に頷いた。
「ちょっと、本当にわかってる?死んだふりなんて生易しいもんじゃないよ。死んだことにするってことはさ、もう間宮ちゃんは間宮ちゃんじゃないし、今までみたいな生活なんておくれないんだよ。それでもいいの?」
「はい」
「…はいって」
「死にたいです」
彼はもう一度オレを見据え、ついさっきまで家に帰りたくないと泣きじゃくっていたなんて嘘に思える顔をしていた。
「ボクを、殺してください。名前も顔も全部捨てて、それでもボクは違う世界で生きたいから」
間宮光は、つまらない人間じゃなかった。
年不相応に笑い、考え、どこかいつもこの世界を呪っていた。
けれど、オレよりは全然世間知らずで、思考の足りないただの子どもだった。
声をあげれば、世界的な教育者の粗探しを血眼になって続けているマスメディアの連中が、真実を暴くに決まっているのに。
わざわざ間宮ちゃんが死ななきゃいけないのは、オレがあの女に最高の絶望を与えてやる為でしかないのに。
「…友達にお別れでも言っとく?その方が自殺したっぽいし、一人なら許してあげてもいいよ」
きっと、あの子に会いに行くと言うんだろう。
大人も子どもも、オレたちが入れ替わっていることなんて見抜けなかったのに、彼女だけはオレの嘘を見抜いていた。
それだけ仲が良くて、それだけいつも一緒にいたんだろう。
だからそう提案してやったのに、間宮ちゃんは表情を変えず、答えた。
「ボクに友達はいません。うわべだけ仲良くしていた子はいたけど」