第11章 過ぎた日をただ思う
「……あーぁ」
深く深く、ため息をつく。
逢坂ちゃんに会いたい。
逢坂ちゃんと話したい。
もうひと月近く経つって言うのに、未だに彼女から近づいてくる気配はない。
近づいてこないってことは、まだ彼女の側にいちゃいけないってことだ。
彼女はオレを、まだ疑ってるってことだ。
「王馬くん、仲直りしないの?」
「言われなくても出来たらそうしてるよ」
「そうなんだ…逢坂さん、学食派じゃなくて購買派だし、クラスも違うからたまにしかすれ違えないよね」
「うーん?…そうだね」
「あ、なにか甘いものをあげて、仲直りしたいって言うのはどうかな。ほら、逢坂さんよくお菓子買って食べてるみたいだし。赤松さんもたまに、逢坂さんに海外のお菓子とかプレゼントしてるよね」
「ゴン太、逢坂ちゃんのこと詳しいね。あんまり二人が話してるところ、見たことないんだけどな」
「え?……そ、そうかな」
「…………。」
ゴン太はオレから目をそらし、から揚げを箸で持てなくて何度もトライし始めた。そのあからさまな態度に気がついて、オレは箸をゴン太のから揚げに突き刺し、目を丸くした彼の口に押し込んだ。
「逢坂ちゃんはオレの彼女だよ?まさか変なこと考えてたりしないよね?バカなのはそのお前の頭の中だけにしてほしいなー。お菓子をプレゼントって残念、逢坂ちゃんはプレゼントされるの本当は嫌いなんだよ。まぁどうせ、逢坂ちゃんの嫌いなものくらいわかってないお前には、振り向いてもらえる可能性なんてひとかけらもないからどうでもいいけどね!」
目を丸くしたまま、ゴン太は「違う、違うよ!」と語彙力の足りない弁明を始めた。
オレは一気に速くなった鼓動を落ち着かせる為に水を飲もうとして、グラスに水が入っていないことに気づいた。
水をグラスに注ぐ間、ゴン太は必死な様子でオレに「逢坂さんのことはなんとも思ってない」と反論してきた。
図星だからこその焦り様なのか、オレに嫌われたくないがための嘘なのか、それともカマをかけた意味がなかったのか、見極めようと彼を観察した。