第10章 オレとボクのライアーゲーム
ねぇ、その覚悟がある?
王馬はつらつらと並べた言葉を、そこでようやく切った。
逢坂の目をじっと覗き込み、ずっと笑みを絶やさなかった彼の顔から表情が消えた。
「逢坂ちゃんの準備ができたところで、オレは何も答えないけどね。だって逢坂ちゃんはまだこっちの世界の人じゃないからさ」
『そっちに行けば教えてくれるの?』
「教えないよーだ、嘘だよ!」
パッと笑って見せる王馬。
喉がカラカラに乾いて、痛いくらいだ。
頭ももう情報処理が追いつかず、頭痛がしてきた。
逢坂は深く息を吐き、ぽつりと呟いた。
『……なら、そっちの世界には行かない。他に教えてくれることはないの?』
「逢坂ちゃん」
王馬は一瞬で間合いを詰めて、逢坂の頬に手を置いた。吐息がかかるほどの距離で瞳を見つめられ、息を飲み、身体を硬直させた。
「間宮ちゃんの話はもういいよ。もっとオレの事を知ろうとしてよ」
『……よくないよ。王馬がどういう人なのか、光くんの今を知らない限り、わからない』
「オレがどういう奴かなんてどうでもいいよ。逢坂ちゃんが知らなきゃいけないのは、オレがどうして逢坂ちゃんを選んで逢坂ちゃんに固執して逢坂ちゃんと一緒にいるかでしょ?間宮ちゃんのこと、思い出したら忘れちゃった?今、この時間を、逢坂ちゃんはついさっきまでオレの気持ちを推し量る為に使おうとしてたんだよ。そんな大事なこと忘れないでよ」
人の死よりも嫉妬が勝る。
彼の心のうちがあたかもそれだけで一杯になっているように錯覚してしまう。
なんて冷たい人なんだろう。
すっかり動揺してしまっているせいで、今までの思い出を黒く塗り潰すかのように、王馬への気持ちが揺らいでいくのがわかる。
『…光くんは、私の友達だったんだよ』
「だから何?オレは逢坂ちゃんの彼氏だよ」
あぁ、もう何を聞いても頭に入ってこない。
この声を聞いていたくない。
思い出したくない。
静かにして
今日は帰って、と。
気づけばそんな言葉を口走っていた。
それだけしか、言わなかったはずなのに。
王馬は逢坂の目を見て、笑いながら提案してきた。
「じゃあ明日までおあずけだね!」