第1章 ガラスの向こうの横顔
王馬は今まで見せたことのない真面目な表情で逢坂を見つめていた。
廊下をすれ違っていく生徒たちの喧騒に、彼の言葉が混じり、変な言葉に聞こえてしまったのだろうか。
そんなことを考えていると、王馬がまた手を繋いできた。
「オレのものになってくれたら、毎日がつまらないなんてことはなくなるよ?へとへとになるくらい世界中連れ回してあげるし、そんな顔させたりしないからさ」
ね、どうする?と笑いかけてくる彼の真意が読めず、逢坂はきょとんとしてしまう。
『……それも嘘?』
「さぁどっちでしょう!どっちがいい?今なら嘘か本当か選べるよ!」
『えぇ〜…いろんな意味で選べないよ』
「えぇーはこっちのセリフだよ!冴えない探偵見習いとシスコンなんかと、悪の総統を天秤にかける気が知れないや」
『いやいや…かけてないし。…その反応ってことは、本気なの?』
「そう思いたいなら思ってくれていいよ!オレの本当の気持ちだからさ」
『…本心がわかりづらいね。はぐらかすなら、私も真剣に取り合わないよ?』
「じゃあじゃあ、オレの本心からの言葉だったらオレのものになってくれるの?」
『ならないかなぁ…会って間もないし。王馬くんは楽しいけど、たまにえげつないからなぁ』
「オレのこと嫌いってこと…?」
くしゃ、とした顔になり、うるうると涙を溜める王馬。
逢坂と同い年のくせに、そのあざとさは卑怯だと思った。