第1章 ガラスの向こうの横顔
(色々と追いつかない…帰る約束した覚えないし、総統ってイメージじゃないし、機種変はどちらかというとありがたい……じゃなくて困るし……さっきの人、狛枝先輩って言ったっけ。この学園来てからそんなこと言われたの始めてだな)
王馬のコロコロと変わる表情をぼんやりと眺めていた。
しかし、彼は逢坂が話を聞いていないことに気づいたらしい。
笑みを崩した王馬が、少しあざとく首を傾げながら問いかけて来た。
「ねぇ、逢坂ちゃんがどうしてもって言うなら、質問に答えてあげてもいいよ」
『……ほんとに?』
「嘘だけどね」
『………総統って、どの組織の?』
「もー!相変わらず都合のいいところしか聞かないんだから!逢坂ちゃんとはいえ、対価無しに悪の総統相手に質問できると思わないでよ」
『対価ってお金?』
「資金なら困ってないし、もっと別のものじゃなきゃ。例えばオレが喜ぶものをくれたりしたら…少し素直になっちゃうかもなぁ」
「総統」という肩書きに興味津々な逢坂に気づいているのか、にしし、とズルそうに笑う王馬。逢坂が彼の気に入りそうなものを本気で考え始めた時、奥の廊下を最原と赤松が歩いていくのが視界に入った。
二人は今日も一緒に過ごしているようで、仲睦まじく逢坂の瞳に映った。
『………』
その二人を見つめていると、なんだか悲しくなってきてしまう。
元々最原と仲が良かったのは自分だという気持ちが、心を穏やかにさせてくれない。
心がかき乱される度、仕方がない、仕方がないと何度も心の中で繰り返す。
何かが込み上げてくるのを喉元で抑え込むたび、胸が重荷をくくりつけられたように重くなる。
心臓が苦しいのとも違う、閉塞感。
ため息が自然と出てしまい、ハッとして王馬を見た。
彼はまた真顔のまま、逢坂を見つめていた。
「逢坂ちゃんをくれるなら、なんでもオレの事教えてあげるし、ずっとオレの側に置いといてあげるよ」
『………え?』
それは、超高校級の総統からの思いもよらない提案だった。