第10章 オレとボクのライアーゲーム
「………ま、いっか」
どうせ1ヶ月この家にいなくてはいけないのだから、逃げる意味などない。自分から1ヶ月と申し出ておいて、ゲームをリタイアすることはしたくなかった。
それから、何日が経っただろう
光の届かない地下室で、誰かが訪れるのを待った。永遠に感じられるその時間の中で、徐々に自分の中から不安と焦燥感が湧き上がってくることに気づかずにはいられなかった。空腹で思考もおぼつかず、なんでこんなことしてるんだっけ、なんて間抜けな事を考えながら時間を浪費した。
何十時間が経過してから、1人の女が灯りを持って現れた。彼女は「あなたがいけないのよ」とだけ告げると、オレの言葉に耳を傾けることなくまた地下室から出て行った。数時間おきに現れては、同じ言葉を繰り返す女。きっと、母親かなにかなんだろうけど、家出くらいで監禁して食事も与えないなんてイカレてる。
そう思って無視し続けたのに、気づけばオレは、その女が現れる度「行かないで」と声を発するようになっていた。
その行動を二人とも何度も何度も繰り返して。
ある時、女が別の言葉を使った。
「他にあなたは言葉を知らないの?何か他に言わなくてはいけないことがあるでしょう?お母さんをこんなに心配させて、あなたは悪い子だわ。あなたがいけないのよ」
自分の子どもを「あなた」と呼ぶその淡々とした言葉を聞いて、一瞬「オレ」に対しての言葉なのか、「光」に対しての言葉なのか、頭が混乱した。
「…………ごめんなさい」
口走って、ハッとした。
今、オレは「どっち」のつもりで言葉を発しただろう。
自分の中に感じた違和感の正体を突き止めようと思考を巡らせても、空腹のせいで頭が回らない。
もうどのくらい食べものを口にしていないのか思い出せない。
「わかってくれたのね、嬉しいわ」
そう告げた「母親」の女の声を聞き届ける前に、オレはバランスを崩し、その場にへたり込んだ。
まあまあ大変、という全く現実味の感じられない言葉を遠くで聞きながら
オレは意識を手放した
ーーーーーーこんなのってありかよ