第10章 オレとボクのライアーゲーム
「頼む…!ボ、ボクの家は裕福だし、孤児でいるよりは数倍マシな生活ができるよ」
ひと仕事終えてきた後だったオレの変装姿を見て、あいつはオレを孤児だと誤認し、声をかけてきたのだとわかった。あいつの服はどれも高価そうな生地ばかりで、動きづらそうで仕方がない。裕福で「何の問題もない家」なら、わざわざ見ず知らずの他人に土下座をしてまで入れ替わってほしいと頼む意味がわからない。一番最初に口走っていた言葉を思い出しても、確実にコイツの家はヤバいところなんだなと理解できた。けれどオレはついさっき、楽しみにしていた計画が終わってしまったばかりで、つまらなくないことないかな、と考えながら、絶望的に退屈な時間を過ごしていたところだった。
オレ自身、あいつを自分と錯覚してもおかしくないほどそっくりな姿。
そんなやつとこんなタイミングで出会うなんて、つまらなくないゲームの開始を告げるには、十分だと思えた。
「……仕方ないなぁ、ひと月だけなら入れ替わってあげてもいいよ!」
「………え?そんなにいいんですか?」
「衣食住の保証付き!たっぷりひと月家出暮らしを楽しむといいよ!その代わり、ただのボランティアじゃつまんないからさぁ……オレがちゃんとひと月お前のフリをして入れ替われたら、賞品としてお前の命はもらうからね?それと、逃げようなんて思わないでよ!どこに逃げたってオレの部下にお前のこと監視させるからね」
尻込みするかと思ったのに、案外あいつは目を輝かせて、オレを見つめた。
「……ありがとうございます。でもきっと、キミはボクの家から離れられなくなりますよ」
あいつの乾いた笑みはまったく子どもらしさを感じさせることなく、見開かれたままオレを見つめるその眼は、まるで人形がこちらを見つめているような気分にさせられた。
「…じゃあその時は、オレの負けってことだね」