第10章 オレとボクのライアーゲーム
「はぁ?なんでオレがお前のためにそんなことしてやらなきゃいけないの?そもそも、お前誰だよ!」
今思い返しても、あいつは変な奴だった。
「お願いです…もうあの家には帰りたくないんだ」
うだるような暑さの夏の日。ごった返す人混みに紛れ、たった一瞬、交差点の途中で目を合わせた。すれ違っただけの赤の他人。それなのに、あいつは脱兎のごとくオレを追いかけてきて、理解に苦しむ頼みごとをしてきた。
ーーーーボクと入れ替わってください
家に居たくない、家に居られない、自分が自分じゃなくなってしまう、ほんの少しの間でいいから。
脇目も振らずオレにそう繰り返すあいつを引っぱって、赤信号で取り残されていたスクランブル交差点から路地に連れ込んだ。
「ちょっと、危うく轢かれるところだったじゃん!それに言ってる意味がわかんないよ!えっ、もしかして…生き別れたオレの兄弟…?こんな所で再会するなんて……って、そんな下手な嘘つまんないよ!」
「兄弟なんて、ボクにはいません。ただ、キミはボクとそっくりでしょう?頼むよ、少しの間だけでいいから…!」
ボクと入れ替われ、と言って聞かないあいつは、よく見ると確かにオレと入れ替わっても分からないんじゃないかと思えるほど瓜二つの容姿を持っていた。本当にこの世にドッペルゲンガーなんているんだなぁ、とのんきに考えていると、あいつはオレの靴を掴んで、地面に額をぶつけながら、頭を下げてきた。