第9章 キミとの距離
『…家族になりたいって思ってくれるの?』
「当たり前じゃん!オレは付き合った段階で、逢坂ちゃんが灰になるまで絶対に逃がさない覚悟なんだからね!」
『初めて聞いたけどそんな覚悟』
「逃げようとしてもムダだよ、オレから逃げたらどこまでも追いかけて捕まえて地下室の牢屋にぶち込んで一生オレ以外の人間と二度と接触できないようにしてやるから」
『口説き文句も度がすぎると脅迫だよね。王馬の冗談は、嘘だってわかるまで一瞬の戸惑うからヒヤッとする』
「え?今のは嘘じゃないよ」
『嘘ってことにしておいてよ…』
王馬はまだ逢坂の家に行きたくないのか、逢坂の手を引いて、帰り道とは違う方へ歩き出した。それを止める必要も特に感じなかったので、逢坂は黙ってその誘導に従うことにした。
(……あ……結局、なんで私なのか聞けてない)
進路だけではなく、話まで誘導されてしまっていた。王馬はいつも、自分のことを聞かれるとはぐらかす。相手のパーソナルスペースには土足で踏み込んで来るくせに、ずるい。
(……私が言えたことじゃないか)
思い返してみれば、一番最初に王馬のテリトリーを犯したのは自分だ。しかし、そもそもその距離に近づいても、王馬に跳ね除けられなかったことが不思議に思えてきた。夢野のように、真っ当に彼に想いを寄せていた相手に対してもあの扱いだったのだ。自分が王馬にしでかしたことを考えれば、それこそ秘密結社に存在を消されてもおかしくないのではないか。
どうして、特別なのか。出会ったきっかけは、二人が偶然にも教室の窓際の席で、ちょうどタイミングよく視線が交差しただけ。好奇心旺盛な王馬がその後自分に興味を持っても不思議ではないが、ただの興味が好意に変わるには、あまりに理由が薄すぎるような気がする。
『ねぇ、王ーー……』
考え事をやめて、隣を歩く王馬を呼んだ時。その横顔に、一瞬誰かの横顔が重なって見えた。その光景に気を取られ、彼を凝視してしまう。すぐに逢坂と目を合わせた彼は微笑みを浮かべ、なに?と嬉しそうに言葉を返した。
『……。』
「どうしたの逢坂ちゃん、そんな可愛い顔してオレを見つめたりして。…あ、もしかして甘えたいの?だめだよ、今はまだ公共の場だから我慢してくれないと!」
『……王馬さ』