第9章 キミとの距離
『前にも私と、どこかで会った?』
王馬は大きな目をさらに丸く見開いて、逢坂を見つめた。途端に色を失っていく彼の顔は、喜びも、悲しみとも取れないものへと変わっていく。その表情を見て確信した。
『…やっぱり、会ったことがあるよね?』
「……会ったことないよ。オレみたいな嘘つきが身近にいたら、逢坂ちゃんの頭は覚えてそうなものじゃない?」
また笑って真実を隠そうとする彼の顔は、もう高校で出会った王馬小吉のものとは思えない。ほんの断片を思い出しただけ。見覚えのある「彼」の笑顔。些細な違和感の正体に気づいてしまえば、まるでパズルのピースが組み上がって一つの絵が完成するように、次々と「彼」の記憶が蘇ってくる。
『…あなたは誰…?どうしてここにいるの』
「なんの話?」
『だって君は……ここにはいられないはず…!』
『だってもう、君は死んでるんだから…!』
王馬は、口が裂けるような笑みを浮かべ、浮かべーーーー
ただ逢坂にはっきりと聞こえる声で、こう言った
「なぁんだ、バレちゃったか」
話は、5年前に遡る。