第9章 キミとの距離
『…いたことないからわかんない』
「じゃあさ、オレの家族になってみる?」
『……うーん?………なろうと思ってなれるものじゃないよね』
「いや、なれるよ?逢坂ちゃんが望めばさ」
『あはは、王馬が私の弟になってくれるの?』
「いやいや、彼氏なんだから、家族になるとしたら逢坂ちゃんはオレのお嫁さんだよ」
『………』
王馬は笑わないまま、逢坂に向けて問いかけてくる。
「オレの家族になる?」
逢坂はその顔を見て、瞬間的に王馬が冗談で言っているわけではないことに気づいた。パッと手を離し、曖昧な笑顔を浮かべて答える。
『キーボがいるから、もう家族はいらないよ』
「なんだぁ、言質とったら影で待機してたオレの部下が逢坂ちゃんを拘束して、今すぐにでも婚姻届にサインさせるくらいの準備は整ってたんだけどな」
『人件費の無駄使いじゃないかなそれは』
「そうでもないよ?あいつらとは、いつでも逢坂ちゃんを組織に引きずり込んでいいって話になってるからさ!」
『……ん?……あいつらって、組織の仲間なの?王馬の家族は、組織の仲間?』
「そうだよ!構成員1万人の秘密結社のメンバー全員が、オレの仲間であり家族だからね!」
『……』
王馬が度々口にする「あいつら」とは、王馬が率いる秘密結社の面々のことらしい。人数の設定に嘘は混じっていようとも、家族と呼べる存在がいることは確かなのだろう。
だから王馬は、学校の友人程度に嫌われようが煙たがられようが、恐れることなく自分を貫くことが出来るのだろうか。
『……王馬の家族のこと、知りたいな』
「いーよ!逢坂ちゃんが組織に入ってくれたらね!」
『組織に入らなきゃ教えてくれないの?』
「いくら逢坂ちゃんでも、さすがに秘密結社のメンバーの事を話すわけにはいかないよ。逢坂ちゃんが裏社会に来るって決めてくれたら、考えてあげなくもないかなー」
逢坂はその王馬の返事を聞いて、そっか、と残念そうに呟いた。
「じゃあオレからも聞くけどさ、どうやったら逢坂ちゃんの家族になれるの?」
王馬はまた逢坂の手を取って、歩き始めた。季節はまだ2月中旬。手袋をしているわけでもないのに、両手をポケットに入れずに歩いて寒くないのだろうか。