第9章 キミとの距離
間も無くして、赤松がどうグループから離れようか考えている間に、逢坂は一人の男子生徒と会話するようになった。すぐにあの二人が付き合っているという噂が校内に流れたのに、最原という珍しい名字を持った弱々しい印象の彼は、それでも逢坂の側を離れようとはしなかった。人の噂も75日。二人の噂が噂として廃れてきた頃、最原は以前にも増して、逢坂の側を片時も離れなくなった。
(……羨ましい)
そんな感情が赤松の心に浮かんでは、逢坂と一緒に居続ける最原に視線がいってしまう日々が続いていた。スタートダッシュを望みとは違うグループで切ってしまった赤松は、中学生活がスタートして一度目の冬を迎える。ある日を境に、ぱったりと逢坂が学校に来なくなった。
「ねぇ、逢坂さんどうしたのかな?知らない?」
「えーなんだろね?きっとアレじゃない?」
「ダサい原と痴話喧嘩!」
「かもねー!もしくはお得意のロボット製作に忙しいのかもよ?」
「ちょっと…最原くんをそんな風に言うのはやめなよ。…ロボットって?」
「やだ楓知らないの?逢坂ってさーー」
嘘つきなんだよ。
そう告げた友達の言葉が引っかかり、慣れない諸外国の英字新聞を片っ端から読み漁った。それらしいロボット工学系の雑誌を買っては読み、本当に逢坂が嘘をついているのか確かめた。
そして、見つけたのだ。
人間に最も近いロボット研究が、一人の少女の手によって進められているという、英国で有名な科学雑誌の見出しを。
「ねぇ最原くん、逢坂さんが来なくなる前日、一緒に帰ってたよね?その時何か話したりしなかった?」
赤松に急に話しかけられた最原は、動揺を隠そうとしてのことか、帽子のつばを掴んで、俯いてしまった。
「そっか…どうしちゃったのかな、逢坂さん。最原くんは逢坂さんの家知らない?」
「…知らない。…赤松さんは逢坂さんと連絡とってみた?」
「うん、だけど全然返ってこなくて…期末も受けないつもりなのかな?テスト範囲とかわかってるのかな」
「どうなんだろ」
(どうなんだろって…なんでこんな他人事なの?)
「どうなんだろって、最原くん逢坂さんの彼氏じゃないの?なんでそんなに平然としていられるの?もうひと月も学校来てないんだよ?」