第9章 キミとの距離
始まりは、単純な好奇心。歳不相応に大人びて、独りでいても凛とした雰囲気を崩さない彼女に憧れた。声をかけてみたかったが、贅沢なことに赤松は人気者で友達も多く、学校生活を送る中で、人が周りに集まってこない時間など無いくらいだった。
「楓ー、私とバドミントンのペア組もうよー」
「…あ、ごめんね!私今日逢坂さんとペア組むから!」
「え…逢坂と?」
体育のペア決めで、いつも余ってしまう彼女。
『先生、組む友達がいません』
恥ずかしさや恐れといった感情を一切その整った顔に乗せることなく申し出る、その姿が力強くて、赤松は好きだった。
「逢坂さん、私と組んでよ!」
『…ありがと。えーっと…名前なんだっけ』
「私赤松楓!よろしくね、逢坂雪さん」
自己紹介をすると、逢坂は優しく笑って、初めて赤松を見てくれた。けれどそれは一瞬だけで、次の瞬間には逢坂の目に映っている自分の姿が、ただの反射に過ぎないことを悟った。
その時、確かに思ったのだ。
誰よりも聡明なのに、それをおごることはなく。どこか遠くを見つめたまま、心をそこに置いてきてしまったかのような彼女の、その綺麗な顔の下に隠されてしまった感情を知りたいと。
その感情を吐露する相手がいるとするのなら、それは一番の友達として認められた自分でありたいと。