第9章 キミとの距離
「逢坂さんは、王馬君と同じように、俺らと距離を置きたいって思うんすか?」
『…え?思わないよ』
「なら、茨の道っすね。俺らだって逢坂さんの近くに居たいっすけど、王馬君の敵意がすごいんで。どうにかコントロールしてくれないと、なんつーか…厳しいっすよ」
『……だよね。もう一度話してみる』
「あと、赤松さんが話したいことあるらしいんで、放課後1-aに連れてきてって頼まれたんすよ。なんで、来てくださいね」
『えーーやだよ、いいよもうあの話は。別に邪魔に思われてても思われてなくてもいいよ』
「謝らせてあげるのも優しさじゃないっすか?見てらんないっすよ、人目もはばからず号泣しちゃって」
『それ私が完全に悪者になるやつじゃん』
「いや、悪者にされてる王馬君は1-aにいるんで。なんか、迫力のある子が王馬君捕まえてきて、お姉さんみたいに叱ってたっすよ」
『………は?』
放課後、逢坂と天海が顔を出した1-aの空気は、冬真っ只中の外気よりも冷え切っていた。教室の前後に配置されている扉の片方、前の扉から一番近い所に赤松の机はあった。その机の周りには、まだ目が腫れぼったい最原と、その最原よりも腫れぼったい目をして、普段の愛らしい外見より3割増しブサイクになった赤松、知らない男子生徒にがっちりと腕を掴まれて不機嫌極まりない王馬の姿があった。
「あっ、逢坂ちゃん!午後の授業の時メッセージ入れたの見てくれた?」
『…あ、見てない。昼食べれたの?大丈夫?』
「食べてないよ…ごめんね、逢坂ちゃんもだよね。オレの帰りを待つ大切な人がいるからって言っても百田ちゃん達がしつこく離してくれなくてさ…」
百田、という名前はきっと、物理的に王馬を捕らえて離さない男生徒のことだろうと逢坂は考えた。あご髭を蓄えた彼は背が高く、普段王馬と会話をしている時とは全く違う首の傾きに、ポキ、と自身の首が悲鳴をあげた音を聞いた。
(…首鳴った…)
「おぉ、逢坂!悪ぃな、急に呼び出して」
『…君が私を呼んだの?楓が呼んだんじゃなくて?』
赤松は、逢坂の姿を見てさっきからずっと申し訳なさそうに瞳を潤ませている。片腕だけを制服に通した奇妙な着こなしの彼は、王馬を捕まえていない方の腕でガッツポーズをしながら、自己紹介をしてきた。