第8章 見つめた時間
逢坂は赤松に笑いかけた。困ったように、愛想を振りまくように。一線引いた笑みを浮かべた彼女の目は、一切笑ってなどいなかった。
「………あ……」
「赤松さん、どうしたの?…あ、逢坂さん、王馬くん」
だれかが呼びに行ったのか、険悪な雰囲気が支配するフィールドに、目を腫れぼったくさせた最原が現れた。その目元を隠すように、帽子を深く被り直した彼は、目を潤ませている赤松に気づいた。
「…王馬くん、赤松さんに何言ったの?」
「ひどいなー、最原ちゃん。オレが何かしたって決めつけるのは早いよ」
「キミぐらいしかいないからだよ、二人をこんな雰囲気にさせるのは。赤松さん、大丈夫?」
『…お腹空いたな。行こうか。二人ともまたね』
「えっ?」
今にも泣き出しそうな赤松を置いていこうとする逢坂の腕を最原が掴んだ。
「ちょ、ちょっと待って。何があったのか僕に説明してくれない?」
『…楓から聞くのが一番わかりやすいんじゃないかな』
「らしくないよ、どうしていなくなろうとするの?赤松さんがこんな風になってるのに…」
『こんな風になってるのが私のせいだからだよ』
「………え?」
逢坂は最原の手を取って、ため息をついた。
『友達がいが無いからね、私は』
「……どういうこと?」
最原が赤松の方を向いたタイミングで、逢坂はその場を離れようと歩きだした。すぐに気づいて、引き留めようとする最原の腕を赤松が掴んだ。
「待って、最原くん」
「でも…!」
「大丈夫、私のせいなんだ」
震える喉でそう言った、唯一の女友達の声を背中に背負いながら、逢坂は階段を降りていく。踊り場まで来たところで、隣を歩いていた王馬を見下ろした。
『ちょっとわがままが過ぎるかな』
「オレがいつわがままを言ったの?思い当たらないから反省しようがないなー」
『一緒にいたいのもわかるし、王馬が今まで身体を酷使して一緒にいる時間を無理やり作ってたのも知ってるよ。でもさ、わざわざ周りを引っ掻き回してまで二人きりになる必要はないよね。話せばみんなわかってくれる人ばっかりなのに、なんでわざわざ傷つけるようなことするの?』