第1章 ガラスの向こうの横顔
困ったような逢坂に、王馬はムッとした顔を向けていたが、すぐにどうでもよくなったのか、コロッと機嫌が直った。
嵐のように突如現れた彼と一緒に、購買へ向かう。
その途中で、白髪のウェーブがかった髪の男子生徒とすれ違った。
そしてその直後。
背後からうわぁっという声と、誰かが派手に転ぶ音が聞こえた。
『大丈夫ですか?』
今しがたすれ違った白髪の彼は、廊下を走っていた生徒たちにぶつかられたらしく、盛大に転んでしまったらしい。
逢坂は近寄って、彼に手を差し出した。
「……いて……あぁ、うん、ありが………」
彼は差し出された手をつかもうとして、逢坂と目を合わせた直後、石化したように動かなくなってしまった。
『…大丈夫?どうかしました?』
「………え……いや、なんでもないよ。ごめん、どこかへ行く途中だったんでしょ?」
差し出された手をつかむことはなく、彼は自力で立ち上がって、ばつが悪そうにはにかんだ。
「逢坂ちゃん、どうしたの?」
『え?…ううん、なんでもないよ』
じゃあ、と軽く手を振って立ち去ろうとした時、ぐんっと体が後ろに引っ張られた。
振り返って見ると、さっきは掴まなかった手を白髪の彼がしっかりと掴んで、逢坂の身体を引き留めたのだと理解できた。
「逢坂さん……なの?」
『…え?』
「こんな大所帯の学校だからしばらく出会えないかと思ってたけど…よかった、今日のボクはツイてるよ。通りで今年の春からずっと不運続きだったわけだ…今までの不運は全部、きっと君に出会うためだったんだね」
がっしりと逢坂の手首を掴んで離さない彼の手を、バシッという痛そうな音を立てて、王馬が叩き落とした。
「いてっ」
「いつまで触ってるの?むしろ、一瞬でも触らないでよ。ムカつくからさ」
王馬は珍しく低い声色で、じろりと敵意を隠さずに白髪の少年を睨め付ける。
少年は軽く笑い、じっと逢坂を見つめて、自己紹介を始めた。
「あぁ…ごめん、気を悪くさせちゃったかな。ボクは狛枝凪斗、2-A組だよ。実はずっと逢坂さんを探してたんだ。差し出がましいお願いなんだけど、ボクみたいなクズと話してやってもいいと思ってくれるなら…一度時間を作ってくれないかな」