第1章 ガラスの向こうの横顔
キャラが濃すぎて、どのグループにも入る気にならない。
その反面、キャラが薄すぎて、入りたい気が起きないグループもある。
『……いいか』
一人でいよう、とまた机の方に向き直る。
ふと視線を下げると、いつからそこにいたのか、机の前にしゃがんだ王馬がじっと逢坂を見つめていた。
『………』
「逢坂ちゃん、今日調理実習だったんじゃない?」
開口一番に質問を投げかけてくる王馬に面食らいながら、逢坂はポツリと返事を返した。
『…うん。どうして?』
「さっきこっちのクラスの子が持ってきててさ。逢坂ちゃんも余ったの持ってるんじゃないかなーって」
『あぁ、持ってるよ。食べる?』
「わーいやったね!でもさ、そんなに簡単にくれちゃっていいの?逢坂ちゃんのクッキーなんて、みんながこぞって欲しがるのに」
『…まさか。王馬くん昼ごはんは?』
「まだだよ!授業長引いたから今から。…あれ?今日は天海ちゃんがいないんだね。一人?」
『うん。天海は旅に出てる』
「へぇー……あ、美味しそうに出来てるね。食べるのがもったいないよー」
と言いながら、王馬は本当にそんなことを一瞬でも考えたのか、と聞きたくなるほど、ものすごいスピードでクッキーを頬張っていく。
『甘いもの好きなのか』
「ううん、オレ実は味覚が無いんだよねー生まれた時からさ。でも好きな子のクッキーって食べてみたいんだよ、男子高校生としては」
『味覚がない?…そうなの?』
「そう、だからごめんね!感想とか言えないや。でも美味しかったよ!」
きゃっきゃと笑う王馬は、キャラが濃い部類ではあるはずなのに、不思議と嫌な気分にはならない。
「でも甘いもの食べたらしょっぱいもの食べたくなってきちゃったな」
『………おい、ちょっとしんみりしたこっちの気持ちを返せ』
「こっちはしんみり通り越して虚しいよ、さっきの言葉はもっと別のところに食いついて欲しかったのにさ」
『別のところ?……なんて言ってたか思い出せないや、購買行く?』
「逢坂ちゃんってもしかしてトリ頭なの?脳みそ1gだったりするのかな」
『なんかあたり強いなぁ…しょっぱいものいらないの?』
「いるよ!いるに決まってるじゃん!」
『えぇーなんでキレ気味なの』