第8章 見つめた時間
分かってしまうからこそ、知らないふりはできない。きっと王馬には、手に取るように伝わってしまう。逢坂が王馬の気持ちを分かって無視してしまったのだと、確実に。
『……でもさ、天海はずっと私と食べてくれてたんだから、急に他の人と食べるって言ったってすぐに溶け込むのは難しいよ』
「本当にそう思うの?なら逢坂ちゃんは友達がいがないね!」
『…え?』
「天海ちゃんが、友達の少ないコミュ障の逢坂ちゃんとわざわざ食べてくれてたってわかるくせに、天海ちゃんがもっと他の人と食べられるように動いてあげようとは考えてあげなかったんだ?」
『………』
王馬の言葉に、逢坂は愕然とした。
たしかに、その通りだ。
結果的に王馬を選んだことはどうしようもない。しかし、王馬を選んだその後、逢坂の一番側にいる友達としての天海の立ち位置や居場所まで考えていたのかと聞かれれば、そうではなかった。
友達がいが無い。
たしかに、その通りだ。
『……本当に、王馬の言う通りだね』
「まぁオレとしては二人きりになれればどうだっていいよ!購買行こ!」
なんだか足取りが重い。王馬に手を引かれるまま、購買へと連れて行かれる。その途中で、深刻そうな面持ちをしている赤松を見かけた。こちらに気づいた赤松は、早足で近づいてくると、逢坂と王馬の前に立ち塞がった。
「待って!」
『…楓、ケーキは最原に渡せたの?』
「……渡せてないよ、だって昨日最原くん、すごく落ち込んでてそれどころじゃなかったんだから」