第8章 見つめた時間
「逢坂さん、今日ずっとぼーっとしてるっすね。なんかありました?」
昼休みに入って開口一番、天海が問いかけてきた。逢坂は購買に向かおうと腰をあげて、その視界の端に映る王馬の姿に気がついた。
『実は……あれ、王馬』
「購買行くの?オレも一緒に行っていいよね!」
「王馬君、こっち来んの早すぎないっすか。授業終わってまだ1分も経ってないっすけど」
「自習だったんだよねー。ねぇ、オレも一緒に食べていいでしょ?」
「…いいっすけど、また昨日みたいな地雷踏みに来るようなら話は別なんで」
「例えば?オレと逢坂ちゃんが付き合うようになったとか?」
「そうっすね。そんな話が本当なら、オレは邪魔ってことになるんで席を外すことにします」
「じゃあ天海ちゃんはお邪魔ってことだね!よかったぁ、またオレが追い払って悪者になんてなったら面倒だから、自覚してくれてて助かるよ!」
「……は?」
天海は事態が飲み込めないという視線を逢坂に向けてくる。なんだか罪悪感のようなものが胸に渦巻いたが、嘘をつくわけにもいかず、逢坂は重い口を開いた。中途半端に優しくしたところで、逢坂が王馬を選んだ以上、天海にとって一番いい結果にはならないのだ。
『…本当に付き合うことになったんだよね。でも、天海が邪魔なんてことはないよ』
「えー邪魔じゃん!クラス別々なんだから、一緒にいれるときは二人きりがいいよ!」
『ちょっと、約束してたわけでもないでしょ。そんな言い方やめてよ』
天海は一瞬目を見開いた後、ひどく落ち着いた様子で、そうっすか、とだけ返事を返した。
「逢坂さん、気を使わなくっても大丈夫っすよ。薄々予感はあったんで。…じゃあ、俺は別の人と食べることにするっす」
『えっ?』
「じゃあ、俺はこれで」
天海はそれ以上関わり合いたくないという雰囲気を言葉に出して、教室から出ていった。逢坂は反射的にその背を追いたくなってしまったが、王馬に手を掴まれ、我に帰った。
「どこ行くの?」
行かないでよ。
「オレより、天海ちゃんと一緒に居たかった?」
オレを選んでよ。
『……そんなことはないけど…』
こういう時ばかり、王馬の心情が手に取るように分かってしまう。