第8章 見つめた時間
「彼氏が自分の上に跨ってるのに、その冷静さは何?つまんないよ」
眠い目をこすっていた逢坂は、じっと王馬を見つめた。王馬は不満そうな顔をして、逢坂の顔の横に両手を置いた状態で覆い被さってきた。
「オレに渡してきた本命チョコ、「さっきそう決めた」って言った意味答えなよ」
『…意味なんて気にしたら負けだよ』
それっぽいことを言っておけば言い逃れられるだろう。逢坂はそんな浅い悪知恵を働かせたつもりだった。
それが、間違いだった。
『……?』
王馬の目の色が、一瞬ぎらりと変わった。へぇ、と低い声で返事をした彼の整った顔が近づいてくる。
王馬は目を閉じたまま、逢坂の口に触れてきた。
『……っ』
彼は目を閉じたままで。
逢坂は、事態が飲み込めるまでの数秒、目を開いたままだった。
だから、すぐに目を開いた彼と目が合った。
『……!………!?……んっ!』
唇が触れている柔らかさに胸を焦がすのも束の間、王馬は逢坂の眼を眺めたまま、口を舌で押し開いて、逢坂の舌に吸い付いてきた。
『…………!!!!!???』
カァッと逢坂の頭が熱くなる。王馬に舌を絡め取られ、甘噛みされ、これでもかというほど口内を舌先で弄ばれた後、逢坂は解放された。
『………な………なにす………っ』
「で?答える気あるの?ないの?」
『…………えっ…』
「答えるの?答えないの?」
どっち、と低い声で逢坂を急かしてくる王馬は、あんなキスをしてきたくせに恐ろしいほど平然としている。
『……………』
「ねぇ、呆けてる場合?もう待てないんだけどなぁ。5、4、3、2、1」
『……えっ?まっ、待……っ!』
突然のカウントダウンが終わり、また口を塞がれる。恥ずかしさから、ひぃぃと叫びたい衝動に駆られるが、彼の腕は逢坂の顔を掴んで離さない。じたばたと抵抗する逢坂の両手両足を、彼は器用に片手両足で押さえつけ、空いた手で逢坂の顎を掴み直す。
数十秒間の濃いキスの間、王馬は一切手を緩めることなく、恥ずかしがる逢坂を鑑賞した。