第8章 見つめた時間
愛情と狂気は紙一重。子どもの頃に読んだ小説が、そんなテーマを主題としていたのを、逢坂はぼんやりと思い出していた。
朝を迎えて、学校で授業をまともに受けようとしてみても、昨日の夜、逢坂を見下ろしてきた彼の目が忘れられない。
ーーーなんだ、起きちゃったか
目を覚ました逢坂に見つめられた彼はそう呟いて、口が裂けそうなほどの笑みを浮かべた。そしてなにもなかったかのように、ケーキ美味しかったよ!と逢坂の上に座ったまま、感想を述べた。
『……何しようとしてたの?』
「別に?自分の彼女の寝顔をもっと間近で見たいなぁって思っただけだよ」
『私の上に乗る意味ある?』
「そんなに重くなかったでしょ?」
『いや、重さの文句を言ってるわけじゃ…』
王馬は逢坂が身体を起こそうとするのを、上に乗ったまま、逢坂の額に人差し指を押し付けて妨害してくる。震えながら身体を起こそうと努力し続けた逢坂だったが、インテリ派筆頭の腹筋が耐えきれず、またソファにドサリと倒れた。
『…いつ起きたの』
「オレもついさっきだよ。ねぇねぇ、起きたんならオレと遊ぼうよ!何したい?候補としては、逢坂ちゃんの部屋のガサ入れか、タンスの中身当てゲームかな!」
『どっちにしろ私のタンスの中身見せなきゃいけないじゃん。やだよ』
「えー…全く、もーオレの彼女はわがままだなぁ。じゃあ賭け事でもする?オレが逢坂ちゃんの携帯のメッセージの差出人、上から10人言い当てられたら罰ゲームとして男の連絡先全部削除してよね!いい?いくよ!」
『……え?よくない!全然よくない!そもそも10人も友達いないから成り立たない!』
「そっか…逢坂ちゃんは、クラスで天海ちゃんくらいしか気を許せる相手がいないくらい可哀想なぼっちだったね…よりによってそんなデリケートな部分に塩を塗り込む気はなかったんだけど…彼氏として失格だよ」
『そのやたら彼氏彼女って口にするのやめない?聞くごとに恥ずかしさが増していくんだけど』
「なんで恥ずかしいの?だって逢坂ちゃんはオレの彼女なんだよ?もっと自覚持ってもらわないと、先が思いやられるよ!」
『自覚って……彼女を乗り物扱いしてる子に言われたくないよ』