第1章 ガラスの向こうの横顔
この話題が始まった時はどうなることかと思ったが、案外赤松は満足そうに笑っている。
そのハラハラとした空気を後ろで観察していた逢坂と天海は、お互いの顔を見合わせて、こくりと頷いた。
(……そっか、王馬君ってこういう子なんすね)
聡い二人は、王馬が赤松を貶して何をしたかったのかに気づいてしまった。
天海は序盤で止めに入ろうとしていたが、逢坂に袖口を引っ張られ、間に入るのを止められていた。
不穏な空気を望まない逢坂がなぜ止めに入らないのか、疑問でならなかったが、事の顛末を観察して、ようやく納得することができた。
「…判断早かったっすね。知ってたんすか?」
『いや?』
「ん?勘っすか」
『うん。そういう子じゃないんじゃないかなぁってだけ』
「……」
『…天海、明日から北欧だっけ』
「え?そうっすよ。またたくさんお土産買ってくるんで、楽しみにしててくださいね」
『そっかー。お土産はいらないよ。気をつけて行ってきてね』
「いや、お土産は無意識のうちに増えてるんで」
にこにこと笑う天海。
そんな彼を見て、逢坂も少しだけ微笑んだ。
(…多分、この現状をどうにかしないといけないんだろうな)
天海が北欧へと旅立った、2日後の昼休み。
ざわついている教室で、逢坂は一人、パンをもさもさと口に詰め込んでいた。
他のグループに声をかけるのが面倒くさくて、虚空を見つめたまま無言で食事を続けるその空気は、客観視を試みなくとも自覚出来るほどに、重い。
さぞ周りの生徒からは肩身が狭く見えていることだろう。
「苗木くん、一緒に食べませんか?」
「えっ…う、うん、喜んで」
「あっ、ずりーぞ苗木!舞園ちゃんオレも一緒に食べたいなぁー」
「桑田くん…じゃあ、三人で」
「いやむしろ苗木はいらなくね?二人だけでよくね?」
「ちょっと、いきなり入ってきてそんなこと言わないでよ」
「あら、皆さん食堂に行きますの?でしたら、私もご一緒させてくださいます?」
「むっ、弁当を忘れてしまった……苗木くーーん!僕も混ぜてはくれまいか!頼む!」
「わぁ、大所帯だね」
(……舞園と苗木は全然進展しなさそうだな…ていうか、いいのかな。アイドルなのに)