第7章 嘘つきの本当
そういえば、王馬は昼間に会った時「徹夜してきた」と言っていた。今日の放課後を空けるために、無理をしてきたんだろうか。痛みで潤んだ瞳で瞬きして、大きくあくびをした後、王馬がソファから飛び起きた。そして、キーボの目の前で、チョコの箱を冷蔵庫に仕舞おうとしていた逢坂に後ろから抱きついた。
『わっ………王馬?』
「…食べる。勝手にしまわないでよー…」
「なっ!…王馬クン、博士との接触が多すぎますよ!」
「…いいじゃん…だって彼氏だし」
「彼氏?」
『だからって人前でくっつかない』
逢坂は王馬から距離を取り、チョコの箱をテーブルに置いた。えー、という眠そうな声を発する王馬を見たが、今にも眠りに落ちそうだ。
『…だめだ、寝かせよう』
「王馬クンは寝不足で理解不能な言動を繰り返しているんですか?」
『うーん…それだけが理由ってわけじゃないと思うんだけど…ちょっと私の部屋に連れてくね』
「はい」
カクカクと舟を漕ぐ王馬の手を引いて、三階へ連れて行く。チョコがどうの、セサミストリートがどうのと寝ぼけて呟いている気がするが、気にしないことにした。
逢坂の部屋に着いて、どうぞ、と彼にベッドを促す。王馬はエネルギー切れを起こしたのか、ベットに横になって、すーすーと寝息を立て始めた。
『………。』
見慣れてしまった愛らしい寝顔。獄原が今日、何の気なしに言っていた。王馬は不真面目ではあるが、絶対に学校の授業で居眠りはしないんだそうだ。かといってノートを取っているわけでもなく、熱心に書いているものといえば、教科書の落書き程度らしい。
きっと、彼は人前では眠れないのだろう。他人の好意からもらったものに、毒が入っている可能性がある世界を知っているのだ。だからこそ逢坂には、不思議でならない。どうして王馬が自分を選んだのか、わからなかった。知りたいような、知りたくないような、複雑な感情。
寝苦しそうで、彼のスカーフを取った。いつも肌身離さず着けているものなので、畳んで枕元に置いておく。
「…逢坂ちゃん…」
『…?』
名前を呼ばれた気がして、王馬を見た。しかし彼は目を瞑ったままだ。寝言だろうか。
『おやすみ、王馬』
どんな夢を見ているのか気になったが、彼が穏やかに眠っているのを見て、逢坂も微笑んだ。