第7章 嘘つきの本当
「逢坂ちゃんはオレと付き合いたくないの?」
王馬は逢坂と繋いでいない方の手をグーにして、あざとく自分の顔の横に持ってきた。逢坂はその様子を写真に収めたいような衝動に駆られたが、とりあえず返事を返すことにした。
『……そんなことないよ』
「なんだ、よかった!じゃあとりあえず、家に帰ったら逢坂ちゃんの携帯に入ってる男子の連絡先削除から始めよっか!」
『……………ん?』
なんだか今ものすごく物騒な言葉が聞こえた気がする。王馬は話をすり替えて、誤魔化してしまった。
(…まぁ、いいか)
王馬は、本当に楽しそうに笑う。もし彼の言う秘密結社が本当に存在するのであれば、きっとそれはそこまで酷い悪の組織ではないのだろうと思えた。これほど幸せそうに笑える少年が総統として君臨している組織なら、大丈夫だろう。王馬は笑いのセンスもあるし、きっとつまらない犯罪を繰り返す秘密結社ではないはずだ。
「…あーお腹すいて死にそうだよ…お腹すいたなー」
『家に帰ったらね』
「いいじゃん一つくらい。じゃあせめてオレに持たせてよ!夢野ちゃんのあげるからさ」
『いらないよ』
信号で立ち止まるたび、王馬はチョコをよこせと騒ぎ始める。逢坂は全く耳を貸すことなく、家路を急いだ。
「実はオレ一昨日から何も食べてないんだよね…冗談じゃなくて本当にうっかりぽっくり餓死しちゃうよ」
『メロンパン食べてたよ。サイズ1/16だけど』
「そんなのじゃ足りないし。…ひどいよ…オレがこんなに頼んでるのに…無視し続けられる逢坂ちゃんはきっと、オレなんかがプレス機で押し潰されて見るも無残な死に姿になったところで、涙ひとつ流さないんだろうね…」
『妙にリアルなのやめてよ、泣くって』
家に着くと、キーボが嬉しそうに出迎えてくれた。
「おかえりなさ…い?」
二人の間で繋がれている手に、キーボが焦点を当てる。怪しまれていることに気づいた逢坂がパッと手を離したが、素早く王馬が腰元に巻きついてきた。
『うっ!』
「動いたら締めるから」
「は、博士⁉︎」